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第22話

 「ちんたらするなよ。」 と、いつの間にか与座さんが、僕の側で仁王立ちをしていた。  不機嫌オーラが、全開である。 「すみません。」  つい反射的に謝ってしまう。  あれ? 王様は僕なのになんで謝ってるんだろう?  室町さんのお膝でぽわぽわしていた気分が、与座さんの声で一気に吹き飛んでいっちゃったよ。  膝枕を自分で提案したときは、寝ちゃうかも?とか思ってたけど、大丈夫かもしれない。  「与座さん、あんまり煽ったら、名取さんが萎縮しますよ。王様は名取さんなんですから。」 白坂さんが、穏やかに嗜める。  与座さんを注意してくれるなんて、ホントに感謝しかない。  ヤバい。白坂さんに惚れそう。  え? あれ? 惚れそう?惚れ……る?  好き?  待って!! 待って!! 待って!! 僕が白坂さんに抱いてる気持ちって、そういうことなの?  でも、でも、でも、彼も僕も男だよ。  でも……  シンプルにお互いの性別は抜きにして考えると、これがいわゆる『好き』て、ことなのかも。と、思えなくもないけど……。  ないけど、ないけど……。  いやいやいや。  僕は、窓に目を向けたままフル回転で、いろいろな気持ちを駆け巡らせる。  「おーい。名取?」 僕の目の前で掌が上下に振られているのが見えて、僕は、自分が置かれてる状況を思い出した。  考え事なんてしてる場合じゃなかったよ。  そう、僕は、与座さんに膝枕をされるところだったんだ。  隣に目を向けると、与座さんが堂々とした僕の隣で胡座をかいていた。  「ぼーとして、大丈夫か? ほら、眠いんなら、俺の膝で寝ていいからさ。ほらほら。」 ぽんぽんと自分の膝を叩く。 「は、はい。すみません。えーと、寝ますね。」 「おお。」 僕は、急かされるままに横向きになると与座さんの太腿に頭を乗せ、膝を立てて白坂さんと室町さんがいる方に足を向けて仰向けに寝た。室町さんの時はまっすぐ正座だったから、寝やすかったけど、与座さんは胡座だから足が斜めになっていて、寝心地が悪い。  僕は、安定感を求めて、ポジショニングを整えるために上の奥の方に少し頭をずらした。 「ちょ、ちょ、ちょ……名取、あんまり奥に頭ずらすなよ。危ないから。」 与座さんが僕の後頭部に手を乗せ、切羽詰まったように声で言った。 「危ない?」 「ほら、頭落ちるさ。」 「ああ。」 「この辺な。この辺。これ以上奥に行くなよ。当たるから。」 「当たる?」 「いい。気にしなくて。」 与座さんは、気まずそうな表情を浮かべて、僕の頭を少し手前に手で押しやった。そのせいで僕の頭は膝枕と言うよりも太腿に頭を寄りかからせているだけになってしまった。  でも、この角度だと頭が斜めになるから、白坂さんを眺めるにはちょうどいい。  「名取さん、頭その位置で大丈夫?」 「はい。問題ないです。」  彼が、シャツのカフスボタンをはずし、前腕の途中まで腕捲りをした。ただ腕を捲っているだけなのに仕草ひとつひとつが、様になっていて見惚れてしまう。  もはや膝枕になってなくてもいい。目が合うのは気恥ずかしいけど、テーブルを隔てた距離よりも近くに彼を感じられるのは、やっぱりいい。  耳心地のいい声とか溜飲するたびに動く喉仏とか僕の心は、昂揚するばかりだ  「問題ないってさ。白坂、計っていいぞ。」 与座さんが、口を挟む。 「はい。了解です。じゃあ、押しますね。」 「おお。」 「お願いします。」 僕たちが返事をすると白坂さんが、スマホを手にもち、画面をタップした。  ひゃー。今、タップした瞬間、スマホを持つ手の前腕の筋肉の筋が浮かんでたの、かっこいい。腕を捲っただけのたったの10cmちょっとの露出なのにすごいどきどきする。  「名取、ダメだろ? 寝てなきゃ。」 いつになくやさしい声が頭上から降ってきたと思うと、僕の視界は、与座さんの掌によって、強制的にシャットダウンさせられてしまった。 「名取、掌に睫毛当たってくすぐったいから、目をぱちぱちさせんな。瞑っとけ。」 「……はい」 僕は、目をぱちぱちするのを止め、与座さんの指の隙間から白坂さんを眺めることにした。  指の隙間から、白坂さんにお酌してもらってる室町さんの姿が見える。  視界が遮断されると、ついさっきまで感じてた距離の近さが一気に遠くになったような気がして、淋しい。    「与座さん、無理矢理寝かせようとしなくても。」 室町さんの声が聞こえる。 「こいつ眠そうだっただろ? 疲れ貯まってそうだしさ。少しくらいはよ。」  与座さんが、珍しく優しい。もしかしたら、僕、寝てるように思われてる?  「まあ、金曜日ですからね。」 「病み上がりもありますしね。」 「白坂、なんで名取が最近風邪で休んでたの知ってんだよ?」 「そちらに電話するとだいたい名取さんが、取り次いでくれるんですよ。だから、先週あたり電話したときに声がいつもと違っていたので。」 「マジさー。俺、休むまで風邪引いてたなんて気づかなかったけど? いつもおとなしいしさ。」 「うわぁ。そういうとこですよ、与座さん。」 室町さんが、呆れたような声を出す。  ホントに同意しかない。たしかに体調不良は、自己管理不足な僕がいけないけどさ。  白坂さんの爪の垢を与座さんに飲ませてあげたいよ。あ、だめだ。白坂さんの体から出たものを与座さんに飲ませるなんて、もったいなさすぎる。むしろ僕が飲みたいくらいだ。  僕は、自分の発想の気持ち悪さに気づき、心の中で自分に突っ込みをいれる。  白坂さんのことを考えれば考える程、自分の感情が手に負えなくなりそうで、怖い。  ただ好きなだけなのに。  それだけなのになぁ。  『すき』  ああ。そう言うことか。

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