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第二章・黒龍の鱗⑤[改訂]

「僕が見ていた事すら貴方の脚本通りなのだろう」 「随分出来るように成ったじゃあないか」  太宰の口許は弧を描く。芥川は腕から手許迄の動きに着目するが、特に少量の筋の動きも無く、何かしらも逃亡の計画を企てているようには見られなかった。  何処迄も虚仮にされて居る。此れ以上に芥川の矜持を傷付ける事が在っただろうか。 「……其れでは、此の後僕の行動でさえも予測済みで有ると」 「……さあ、其れは如何かな?」  視界の端に在る太宰の四指が僅かに動いた事を芥川は見逃さなかった。思えば其れすらも呼び水で有る事に何故気付かなかったのか。憂慮する間も無い程芥川が此の状況下、追い詰められていた。  肩に手を置き顔を近付け、包帯の隙間に覗く敦が首筋に散らせた花弁の上から噛み付く。皮膚を破って肉ごと噛み千切って仕舞いたいと願う程に、敦の残した痕跡の一つも許容し難いものだった。 「い、ッ……!!」  太宰の背筋が大きくしなり鉄鎖の音が響き渡る。防衛本能から咄嗟に両腕を引くが、虚しくも上方に固定された儘の腕が太宰の身を守る事は無かった。  今迄太宰を毀損する事が出来たのは、捕らわれたあの一度切り。其れ迄は出奔迄の唯一度も傷を付ける事は叶わなかった。  其れでも未だ足りない。拘束しなければこの様な形であっても触れる事すら叶わない。あの時の芥川の激情は、幾らでも御せる手腕を持ち合わせている筈の太宰が無抵抗で敦に躰を赦していた処に在る。 「解せぬ……何故人虎なのだ……」  口許を汚す太宰の血液を手の甲で拭い唸る様に芥川は其の言葉を口にする。 「……だって君、出来損ないだもの」 「ッ!! 僕は! 僕は出来損ないでは決して……!」  躰中の血液が沸騰する感覚がする。全身が総毛立ち、感情の儘に太宰の首を掴む。今の芥川ならば此の儘圧し折る事も造作無い。只此の期に及んで命乞いや機嫌取りの一つもしないのは太宰が太宰であるからだった。  両手の自由を奪われていても、脚が使えない訳では無い。拘束される事も無く自由な儘の太宰の両脚を左右に開かせ、其の間に身を割り入らせる。 「太宰さん、太宰さん、太宰さん太宰さん太宰さん……」  芥川の右手が脚衣の上から太宰の股間を掴む。僅かに肩を跳ねさせるも、目隠し越しでも解る間近の存在。ざらついた舌表面の感触が首筋の噛み痕に触れると無意識に全身が跳ねる。傷口からじわりじわりと熱くなっていく感覚が太宰は嫌いでは無かった。寧ろ痛みに性的興奮を抱く被虐嗜好の持ち主である事を知って居るのはポートマフィア時代の一握りだろう。  其れは明確に反応として現れ、芥川の手の中で反応を示し始める。 「……降参だよ」 「…………今、何と?」  太宰の言葉に一度は動きを止める芥川だったが、表情の伺えない太宰の一言を聞き返しつつも、腰帯を外し下着の中へと手を滑り込ませる。臆するどころか、直接触れる事で自らの手で其れを高める事が出来る優越感に駆られ、呼吸が上がる。 「だから、降参するよって」 「要求が有るのならば訊こう」 「此れ、外して呉れる?」  問い乍らも芥川は指先で裏筋をなぞる。他人の物に触れるのは此れが初めてだったが、男同士何処が善い場所であるかは己が一番善く解って居る。 「拒否する」 「ッ、ん!」  無意識に閉じようとする太宰の膝を赦さず、指先を滑らせ秘部に中指の先端を強引に押し込む。此の場所許りは芥川でも未経験の場所であったが、知識として知らない訳では無い。幸い痛がるどころか中指を締め付けて来る其処に喉の奥迄上がる嗤いを呑み込み、喉元から顎下を舐め上げる。 「誰も知らぬ此の場所に貴方を永遠に閉じ込め……両脚の骨を折るのも善いだろう、毎日貴方を抱き続ける事も悪く無い」 「……現、実的じゃあ……無いな、っぁ……」 「そう思われるか?」  締め付ける肉壁を強引に押し退け、体温よりも高い其の内部を擦る様に押し広げて行くと、或る一箇所に触れた途端太宰の背中が大きく反れる。 「太宰さん……僕は二度と貴方を失いたくない」

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