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【1】
梅雨の晴れ間のキラキラした日差しの中を、四葩雫 はバス停に向かって歩いていた。
まわりはのどかな田畑や空き地で、細いアスファルトの道がまっすぐ伸びている。
その先はバス通りだ。駅とショッピングモールを結ぶ路線バスが走っていて、雫はそのバスに乗って、モールの中にある大型書店に出勤するところだった。
草の香の立つ一本道を歩いていると、通りの真ん中にゴムサンダルのようなものが落ちているのに気づいた。
近くまで行って見下ろすと、暗緑色のウシガエルが道路にべったり張り付いていた。乾いた斑点模様。なんだか少し干からびて見える。
朝から急に気温が上がり、夏のような日差しがアスファルトを焼いていた。
(動けないのかな……)
自転車に乗った女子中学生の集団が「カエルだ」と言いながら通り過ぎていった。
「でかい」
「きもい」
カエルの身体の横すれすれを、細い車輪がいくつもかすめた。
最後の一台が通りすぎた時、前方から白い軽トラックが走ってくるのが見えた。
もう死んでいるのかもしれない。
そう思いながらも、雫はその場を離れることができなかった。
かがみこみ、生まれて初めてウシカエルに触れた。
思ったよりいけそうだ。
重さは広辞苑とそう変わらない。
そっと持ち上げ、脇の茂みの中に放した。立ち上がると、目の前を白い軽トラックが走りぬけていった。
乾いた道路に砂埃が舞った。
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