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【2】-1
仕事を終えると、また雨が降っていた。
梅雨なので仕方ないが、今年は特によく降る気がした。
バスを降りて歩き、ひとり暮らしの賃貸マンションの階段を上がり、二階の1Kの部屋のドアを開けた。ドアの内側になぜかキュウリが落ちていた。それも二本。
郵便受けから入れられたようだが、意味がわからなかった。拾い上げてしげしげ眺めていると、誰かがドアをコンコンと叩いた。
ドアホンを鳴らせばいいのにと思いつつ「はい」と直接ドアに答えた。
「もし」
「どちら様ですか」
「昼間、助けていただいた者です」
誰か助けただろうか。少しの間をおいて、雫は「間に合ってます」と答えた。新手の新聞勧誘に違いないと思ったのだ。
「もし」
再び声がして、コンコンとドアが叩かれる。
嫌な予感を抱きつつ、恐る恐るドアスコープを覗いた。そして、雫は固まった。
狭い外廊下に、何かのゲームキャラらしきコスプレをした金髪男が立っていた。キラキラの王子様キャラだ。超まばゆくて、超美形。
でも、絶対ヤバイやつ。
黙ってドアガードをロックし、スマホを握り締めた。
「もし」
男がドアをコンコンと叩く。
「け、警察に電話しますよ」
雫の言葉に男が「え……」と声を落とした。
「帰らないと、警察を呼びます」
しばらく待った。耳を澄ますと、雨音だけが聞こえてきた。
ドアスコープを覗くと、コスプレ男はもういなかった。
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