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 仕事を終えると、また雨が降っていた。  梅雨なので仕方ないが、今年は特によく降る気がした。  バスを降りて歩き、ひとり暮らしの賃貸マンションの階段を上がり、二階の1Kの部屋のドアを開けた。ドアの内側になぜかキュウリが落ちていた。それも二本。  郵便受けから入れられたようだが、意味がわからなかった。拾い上げてしげしげ眺めていると、誰かがドアをコンコンと叩いた。  ドアホンを鳴らせばいいのにと思いつつ「はい」と直接ドアに答えた。 「もし」 「どちら様ですか」 「昼間、助けていただいた者です」  誰か助けただろうか。少しの間をおいて、雫は「間に合ってます」と答えた。新手の新聞勧誘に違いないと思ったのだ。 「もし」  再び声がして、コンコンとドアが叩かれる。  嫌な予感を抱きつつ、恐る恐るドアスコープを覗いた。そして、雫は固まった。  狭い外廊下に、何かのゲームキャラらしきコスプレをした金髪男が立っていた。キラキラの王子様キャラだ。超まばゆくて、超美形。  でも、絶対ヤバイやつ。  黙ってドアガードをロックし、スマホを握り締めた。 「もし」  男がドアをコンコンと叩く。 「け、警察に電話しますよ」  雫の言葉に男が「え……」と声を落とした。 「帰らないと、警察を呼びます」  しばらく待った。耳を澄ますと、雨音だけが聞こえてきた。  ドアスコープを覗くと、コスプレ男はもういなかった。

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