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第3話

絆された。 そういっていいと思う。 露木は葵生が好きだ。 線が細くて、時々消えてしまいそうに儚い雰囲気で、自分で自分を持て余している葵生が、心配で仕方ない、そう思っていたんだと思う。 自分の手で幸せにして、笑わせたいと願っていたんだろう。 けれど、葵生はどう見たって露木にそんな気はなくて、むしろ申し訳ないとさえ思っているみたいで、何とか離れようとしていた。 やんわりと拒まれる度に傷ついた顔をして、けれど葵生が何かを望めば、希望をかなえようと露木は手を尽くす。 そして。 俺は、そんな露木が愛しいと思った。 空まわる露木に手を貸して、葵生に感謝されて、露木に八つ当たりされる。 そんな風にワチャワチャとじゃれあいながら、学生時代を過ごした。 同じ大学に進学して、健康診断の日。 大学の健康診断は参加自由だけど、就活の時に改めてどこかの病院に行くよりは、ここで受けておいた方が後々楽だ。 葵生の手を引いて中庭に来た露木は、やっぱり騒がしかった。 わざわざ手を引いているのは、きっと、葵生が健康診断をばっくれようとしたからだろう。 梅雨時にはいつも見られる光景。 「なるなる、やばい!」 「なにが」 「きいちゃんに身長抜かれた!」 目の前に立つ二人を見比べて、俺はうなずいた。 俺は背が高い方だけれど、ふたりだって低いわけじゃない。 ただ、以前は露木と並んでいた葵生の目線は、ほぼ俺と同じ高さにあった。 背だけがひょろひょろと伸びた感じだ。 「ああ、そんな感じだな」 うなずく俺に、露木が悔しい~と、地団太を踏む。 「オレの野望が、実現不可能になる……」 「はあ?」 「きいちゃんを姫抱っこで運びたかったのに!」 「それは持ち上げる力だから、身長関係ねえだろう」 「っていうか、おれは隼に持ち上げられたくないからね」 露木の手を振り払った葵生が、その勢いでチョップする。 「え、じゃあ、持ち上げてくれる?」 「隼を持ち上げるくらいなら、彼女を持ち上げる……いないけど」 「じゃあ、オレでもいいじゃん」 「やだよ」 チョップされた頭をさすりながら、どこまでも本気で露木は葵生を横抱きで抱き上げたいと口にして、葵生は嫌な顔をする。 ぽつり、と、額に滴がおちた。 「あ」 「降ってきたな」 「検診終わったし、いいだろ。おれ帰る」 「講義は?」 「今日ない」 じゃあな、と手を振って葵生が踵を返す。 「きいちゃん、まっすぐ帰りなよ」 「ああ」 露木が声をかけて見送った。 「送ってかないのか?」 「オレは講義あるし……きいちゃんが、嫌がるから」 「そうか」 「もう、いい大人だしな」 「お前は大人に見えないけどな」 「大人なんだよ、同級生」 「だったら、ちっとは落ち着けよ」 「落ち着いてます~」 ぽつぽつと増えていく雨粒。 俺たちは傘をさしながら、軽口をたたく。 露木の視線は、葵生が去っていった方を向いたままだった。 不毛でも、報われなくても、めげないんだよなお前は。

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