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第2話
葵生は梅雨時期になると気持ちがおちる。
本人は克服しようとしているのだけれど、周囲が心配してしまう勢いで、鬱になる。
高校で出会ったころから、すでにそんな感じだった。
原因は幼少期の家庭にあるとかだけど、俺は知りあう前のことなので、詳しくは知らない。
露木は葵生とは幼馴染なので、詳細を知っているらしく、ずっとフォローし続けていた。
俺はふたりと高校からの付き合いだが、正確には入学当初からではなく三年になってからの付き合いだ。
同じクラスになった頃には、ふたりの関係は暗黙の了解という感じで、学年中に知られていた。
線の細い美少年で実際腺病質な葵生と、フォローするクラスのムードメーカー露木。
俺は長男気質で、面倒ごとが長引くくらいなら俺が引き受けたほうがマシ、と思ってしまうものだから、毎年のようにクラス委員を引き受けてしまう、真面目というか貧乏くじポジションで。
ふたりをフォローしているうちに、なんとなく三人でいるようになった。
このまま付き合いが続くんだろうなって思った決定的なできごとは、梅雨のころ。
進路指導が本格的に始まろうとしていた。
他の誰も、気がつかなかったと思う。
賑やかでふざけてて、騒がしい露木の本気。
甘えているようで甘やかしているようで、冗談に見せかけているけれど、露木は欲込みで葵生に惚れている。
俺だから気がついた。
そして、俺が気がついたことに、葵生も気がついた。
梅雨の合間、決行された球技大会のさ中に、教室で葵生とふたりになった。
「梅本……気がついてるんだろ?」
「気がつく?」
「おれ、ひどいよね」
学校あげてのお祭り騒ぎに疲れて、葵生は軽く貧血状態になった。
保健室は嫌だというので、教室に連れてきて休ませていた時に、ぽつりとつぶやいたのだ。
「ひどい?」
どう答えていいのかわからず、同じ言葉を返した俺に、葵生は小さく笑う。
「隼の気持ちは重くて、でも嬉しい。隼がいないと、ここまで来られなかった。でもさ、おれは、隼に同じようには気持ちが返せない。でも、隼を手放せない……自分がズルくて、いやになる」
「ああ……ま、いんじゃね?」
「いい、の?」
「露木は好きでお前のことみてんだしさ……お前はそこに胡坐かいてるわけじゃねえしさ」
「……いいのかな」
「ずっとのことじゃなかったら、それはそれで、いいんじゃねえの?」
校庭の歓声が遠く聞こえて、校舎の中は静かだった。
葵生は溶けてしまいそうに儚くて、露木が心配になって構い倒すのもわかる気がした。
ばあん!
と、校舎の中に扉の音が響く。
それから遠くからバタバタと駆けてくる足音。
「にぎやかだな」
「きーぃちゃぁぁぁぁぁぁん!」
サイレンのように響き渡る露木の声を聞いて、葵生が困ったように笑った。
でも。
でもな、葵生。
俺は、そうやって必死にお前の心配をする露木が、かわいいと思うんだよ。
ものすごく変な話なんだけど。
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