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第6話
三人で会うことは、あれからなくなった。
露木と葵生もじかには連絡を取っていないという。
もっぱら俺を通して、近況を報告しあっている感じ。
「隼がいなきゃ、生きていられなかったから……バッサリ切れなかったんだ。もっと早くにちゃんと話していたら、ここまでこじれなかったんだと思うけど……それもできなかった」
仕事帰りに、時々立ち飲み屋なんかで落ち合って、葵生と盃を交わす。
「前もそんなこと言ってたな。自分がズルいとかなんとか」
「そうだっけ? でも、そう思うよ。今でも」
「そっか」
一緒にいた時間が長すぎて、気持ちが重ならなくても、存在を忘れ去ることはできないと、葵生はこぼす。
梅雨の時期に気持ちがおちるのは変わらずで、会社勤めはフレックスタイム制のところにかわったといっていた。
露木がいなくても、何とか生活は回して行けるようだと微笑んだのは、やっぱり梅雨の時期だった。
葵生とは外で会うようになったけれど、露木とは家で会うようになった。
露木は特に約束をするわけじゃなく、気まぐれにふらりと現れる。
今夜も急に押しかけてきて、持参のビールをひとりでかっ食らって、酔っ払ってる。
「何とかやってるってよ」
「そっかあ……なら、よかった……」
露木は半分眠ったような状態で、ふにゃりと笑う。
露木が来ていなければ、今夜はネットで連絡を取っていた相手と、落ち合うつもりだった。
これが別のやつなら……ありえないけど例えば葵生だったなら、俺は追い返して出かけていたと思う。
なのに、約束をキャンセルして、ここにいる。
露木をバカだと思っていたけど、俺もたいがいだったらしい。
「きいちゃんさあ、梅雨の時期になるといろいろあるじゃん」
半分眠った声で、露木が言う。
「変な男に襲われたのも、おばさんが事故にあったのも梅雨だった……猫がいなくなったのも。雨が降ると怖いことがあるって、小さいときはよく泣いてた」
「ふうん」
「ホントはさ、きいちゃんはしっかりしてんだよ。オレなんかいなくても、大丈夫なの。でも、オレ、それがわかってたけど怖くてさ……焦っちゃった。焦っちゃったのはしょうがないけど、せめて梅雨じゃなかったら、きいちゃん、今でもオレと会ってくれてたかな」
「なにやったの、お前」
「壁ドン」
「は?」
「壁ドンして、ちゅーした。怖がらせちゃった……でも、好きだってちゃんと言いたかったんだ。小さいときの延長じゃないよって。オレ、ここにいるよって、ちゃんと、オレを見てほしかったんだ……きいちゃんに優しい誰でもいい誰かじゃなくて、オレがいるんだよって……」
むにゃむにゃと、くぐもった声で露木が言葉を紡ぐ。
外は静かに雨が降っているようで、ぽつんぽつんと雨どいから落ちる水滴の音が、聞こえていた。
「オレ、いらなかったのかなぁ」
急にはっきりとした声で、露木が呟いた。
「感謝してるって言ってたぞ。お前がいたからやってこれたって」
「きいちゃんは、ホントはひとりでも大丈夫なんだよ」
泣いているのかと思ったけれど、その目は乾いていた。
「オレがいなくても、大丈夫なんだ」
いつもの様子とは違って、あまりに静かで、当たり前のことのように自分の存在を否定するから。
だから、つい、言ってしまったんだと思う。
「俺はいてくれた方がいい」
「なるなる?」
「俺はお前がいたほうが、楽しいよ」
「ありがと……」
溜息をつくように礼を言って、露木はコロンとテーブルの向こうに転がってしまった。
お前は焦った言っていたけど、俺は気が長いんだよ。
もう、ここまで来たら今更だ。
最後まで、つきあうさ。
なあ、お前はこれからどうしたい?
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