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Ⅴ 届けるよ……【完】
そんなの聞いてないーッ!!
「言ってないからな」
「なんでっ、どうしてっ」
あなたは!
「拓史さんの振りしてたんだよ」
「お前がなついてくれなかったから」
えっ………
凌司さんが拓史さんの振りしたのは……
「俺のせい?」
「お前が原因だ」
えっと~
「……また迷惑かけましたか?」
我ながら情けない。
理由が思いつかない。こうした場合、絶対迷惑かけたに決まってるんだ。
「迷惑だ」
「やっぱり……」
ぐすん
「俺になつかなくて迷惑だ。こんなにも尽くしているのに」
あのぅ~
ええっと~
「それってどういう事ですか」
βの思考の領域を超えている。
俺がなつかなくて?
「もっとイチャイチャしたい」
えええぇぇぇぇーッ!!
「毎日ご飯作ってるのに、お前は笑顔を見せてくれない」
「だって凌司さん、恐いもん」
「夜遅くまで帰りを待っていても『ただいま』一つ言ってくれない」
「だって凌司さん、恐いもん」
「風呂に誘っても入ってこない」
「この歳で兄弟混浴は恐いもん」
「………」
「………」
「風呂に誘っても入ってこない!」
「~~~」
そんなに俺と混浴したかったのかーッ、この兄はァァーッ♠
あなたはαなんだ。
きらびやかで威厳があって、俺の自慢の兄はαの近寄りがたいオーラを放ってるんだよ。
βの俺しか分からないだろうけど。
「主治医の飯田医師になってお前に近づいたらなついたから。てっきり、こういう男が好みかと思ったが」
「あのっ、なぜ医師に」
「医師免許を持っているから」
「そうじゃなくて!」
「お前と少しでも一緒の時間を過ごしたい。だがお前は『俺』だと怖がるからな」
俺……もしかして、凌司さんにものすごーーく!愛されてる?
「でも部屋に入るなって」
拒絶された。
「当然だろう。お前がこの部屋に入ったら研究どころじゃなくなる」
………………えっ
「こうして」
指が、手が、
髪を撫でて、頬を撫でて、唇をなぞって。
「愛している想いを体で伝えたくなる」
それがαだ。
触れた唇が囁いた。
俺達はとっくに出逢ってキスしてたんだ。
あの夜
あの電車の中で
同じ匂い
同じ温もりがする。
あなたはずっと、そばにいてくれた。
「これからも、ずっと一緒だ」
左手の薬指に輝いたのは金の指輪
俺にそっとはめて口づけを落とす。
「俺だけのβだ」
離さない。
離れないよ。
好き♥
伝えたい気持ちを雷鳴が邪魔する。
「きっと稲妻の役目だな」
言葉で伝わらないなら……
言葉ごと注ぎ込もう。
雷鳴が照らす影が重なった。
口づけは甘くて………
左手の薬指に輝くMonologue Prismは語らない。
もう、ひとりじゃないから……
《fin》
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