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Ⅳ 霹靂②

………「俺もだよ」 どうして? 濡れたシャツの上から重なる温もり 振り向きたい。 振り返りたい。 温もりの正体を確かめたい。 今すぐ! ぎゅうっと抱きしめる腕に身動きがとれない。 こんなにも暖かく、優しく、強く…… 抱きしめてくれる温もりは、ひとりしか知らないよ。 「凌司さん」 ねぇ、どうして? 応えてくれないの。 あなたの名前を呼んだのに。 「妻に嘘をついた俺は夫失格だな」 凌司さんが夫? ちがう! あなたは俺の兄で…… じゃあ、俺を抱きしめてくれる温もりは拓史さん? 俺、間違えた? 大切な人を 「ワワーっ!」 ドアの向こう、連れ込まれてしまう。 とすんっ 「手荒な真似してすまないな」 ベッドだから痛くなかったけど。 初めて入った。 大好きだった人の部屋 過去形にしなくちゃいけないなんて…… 薄く滲んだ雫を涙だと認めたくない。 そこまで弱くないよ。 せめて最後は強がりたいから。 もう最後なんだ。 最初で最後。 この部屋に入れるのは…… チリっ、と。 赤く走った痛みは、口づけの痕。 あなたでない人のものになった証を、あなたのベッドで繋がれる。 「いけないことをしようか」 この部屋で。 このベッドで。 「ダメだ!」 だって、ここはッ 「凌司さんの」 兄の部屋で、別の男と…… 愛する人の部屋で、愛さなければならない人と…… 「いつになったら受け入れてくれる?」 「いつか……」 「約束になってない」 「でも、ここはダメ!」 「ダメだと言って止められるのか?言う事を聞くとでも?」 体格差で拓史さんにはかなわない。 でも聞いて。 好きな人の……あの人の香りが消えてしまう。 「ふしだらな匂いで染めてしまいたいよ」 カリっ はだけた胸元に花びらが散らされる。 ダメだ。俺は凌司さんが…… 「す……」 光が落ちる。雷鳴が邪魔をする。 声が届かない。想いが届かない。 大切な想いが掻き消されて、削られて。 消えてゆく…… キラキラと プリズムが雷鳴の光に飲まれていく。 どうにか振りほどいた手は、再び捕らえられてしまった。 逃れられない。この人から。 「凌司さんのっ」 涙が零れた。目頭に伝う。熱くて燃えてしまいそう。このまま燃えてしまえばいい。 瞼を振りほどいて、涙が溢れてくる。 「……部屋、なのにっ」 「俺の部屋だよ」 なんで、あなたがそんな事言うんだ。 ここは…… この部屋は…… 「俺の部屋」 「凌司……さん?」 ベッドで手と手を結んでいるのは、 「俺だよ」 俺の兄・笹木 凌司 「えええぇぇぇぇーッ!!」 なんで?? 俺を抱こうとしていたのは、飯田 拓史先生の筈。 凌司さんが拓史さんで、拓史さんが凌司さんで……… どゆこと? 「そのまんま正解」 チュッ 額にキスが落ちた。 (あ。髪が垂れて、凌司さんになった!) 指先が前髪を掻き上げて、今度は…… (拓史さんだ!) もももっ、もしかして★ 「俺が拓史で、拓史が俺」

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