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新生活 (2)
ある日の放課後
「お菓子でも買いにパティオ に行こうぜ」
部屋着でくつろいでいたネヴィルが誘う
「パティオ …?」
「パティオ 知らないのか
おいしーものが売ってるぞ~!」
と財布を掴み足踏みしながらせかすネヴィル
「買う…って お金持ってないよボク」
「はぁ?なんで?」
「お金って見たことない…」
本の中の知識としては知ってはいたが実際に見たことも使ったこともない
「おまえってどこのお坊ちゃまだよ!お金使ったことないの!?」
騎士学院に入る前の生活は常に閉鎖された空間だった
母と暮らした閉ざされた森も
伯爵家での生活も…
学院での衣食住は提供されているしお金がなくても不自由はしないが
嗜好品や本などがパティオ には売っている
悲しそうに俯くフェル
「お前の親 お小遣い持たしてくれてないの?」
ビクッとフェルの肩が揺れる
「……?」
「親…」
「…は もう…」
「もう…?」
「いないんだ…」
絶句するネヴィル
ベッドに腰掛け
俯くフェルの表情は髪とメガネによってほぼ見えないが
わずかに唇が震えている
なぜ…?
ごめん…?
なんて言っていいのか
訳を聞いてもいいかもわからず
「じゃ おいしーもん買ってきてやるから!あとで一緒に食べようぜ!!」
あわてて部屋を出る
誰もいなくなった部屋
「気…つかわせちゃうな…」
ベッドにゴロンと横になりシーツの中に忍ばせている
ボロボロの毛布を頬に押し当てた
それは懐かしい香りがし
フェルの意識を過去へと誘う
伯爵家での生活は突然終わった
伯爵夫人の凶行によりカーティスは病院へ運ばれ
一命は取り留めた
もともと病んでいた伯爵夫人の精神は壊れてしまった
その後フェルが連れて行かれたのは
母と共に塔で暮らしていたときの老婆の兄と言う人が住む
北方の寒い荒れた土地の山奥
痩せた土地に畑を作り
老犬パウルと二人ひっそりと暮らしていたその人はシグリッドと名乗った
伯爵家での数々の辛い出来事に冷たい氷で心を閉ざしていたフェルを
静かに優しくゆっくりと解かしていってくれた
「だいじょうぶ 何も怖いことなんてない」
悪夢にうなされ夜中に何度も目が覚めるフェルを朝まで抱きしめてくれた
温かい大きな手
真っ白な髪に真っ白なヒゲ
シワクチャの手がゴツゴツとして
ここでの生活の厳しさを物語っていた
ボロボロの小屋で食べるものも粗末だったが
小さなベッドで粗末な毛布で一緒に眠った
「だいじょうぶ…温かいだろう」
フェルの髪をなでながら粗末な毛布で包み込むように抱く
「だいじょうぶ…パウルも一緒だ」
「だいじょうぶ…
ボロボロの毛布をギュッと握り安心したような顔で眠りに落ちていった
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