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誘拐【4】
ゆっくりと楽しみながらカーティスはフェルのシャツを切り裂いた後、ナイフを投げ捨てた。
「見ろ」 カーティスの言葉にコピーはフェルの背後に回り込む。
「これがオリジナルだ」
「…はい」
意味のわからないやりとりにゾッとする。
コピーはノロノロと机に向かうと、乗馬用の鞭を取り出しカーティスに差し出した。
(あれで打たれるのか―――)
「いや…やだ……にぃさまやめて」
フェルが逃れようと体をよじるが、吊られた鎖がカチャカチャと音を鳴らすだけで逃げることはかなわない。
「やぁ…痛いの…やだ!やめて―――」
カーティスが鞭をしならせ手のひらでその感触を確かめた後、振り上げるのがわかった。
「………!!」
全身に力を込め、目を閉じ衝撃に備えるフェル。それは幼き日に鞭打たれた経験がそうさせるもので、無意識の行動だった。
ビシィッ!
短い音がしたがフェルの背中に衝撃は訪れなかった。
ビシィッ!ビシィッ!ビシィッ!
恐る恐る目を開け、後ろを見るとそこには、無言で鞭を振り下ろすカーティスと唇を噛み締め、振り下ろされる鞭に耐えるコピーの姿があった。
「な…なにしてるんだよっ!!やめろよ!」
ビシィッ!ビシィッ!
「…くっ」
コピーの顔に体に一瞬で汗がにじむのが見える。カーティスは無言で鞭を振り続ける。
(なんで…?どうしてコピーを? なぜコピーは逃げない?あそこに落ちてるナイフを拾えばなんとかなるかもしれないのに、なぜ…)
耳を塞ぎたくなるその音だが、腕を後ろで拘束されていてそれもできない。目を瞑りガタガタと震えだすフェル。
『お前はっ! その目でわたくしを見るなと!!……何度言えば!!』
鬼の形相の伯爵夫人が鞭を振り下ろす、背中が燃えるように熱い。
『ごめんなさい…やぁ!たすけて…』
ビシィッ!ビシィッ!
熱いのか痛いのかわからない感覚、背中に流れる血を感じる。
『いたい…いたぃ…』
『死んで…?』
髪を振り乱した伯爵夫人が迫りくる
右手にナイフがきらめく
(怖い…助けて ジュリアス様っ―――!)
長い時間のように感じた、鞭の音がやみガタガタ震えるフェルが振り返るとカーティスと目が合う。
「とりあえずこのくらいでいいだろう」
「……は…ぃ」苦しげにコピーが答えた。
「なん…で…?」 なぜコピーにそんなことを?
「不出来なコピー を完璧に近づけるためだ」
そう答えたのはコピーだった。
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