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誘拐【5】

捜査本部になっているブライス男爵邸に、ネヴィルも到着していた。 時刻は昼過ぎ、フェルが誘拐されて3時間が経過していた。 「まだ車は見つからないのか!?」ジュリアスが苛立つ。 「検問を敷きましたが、それらしい車両は見つかっておりません」申し訳ないと長官が頭を下げる。 青い顔で椅子に座ったクリストフェルは、あの男をどこで見たのか思い出そうと躍起になっている。 室内は緊張感に満ち、重い沈黙が訪れる。 空気を変えるべくネヴィルが飲み物を用意して戻ってきた。 「どうぞ」ジュリアスに冷たいお茶を差し出す。 「すまない…皆少し休憩しよう」 「私は王都に行き、直接指揮にあたります」長官が出ていった。 「おい…ちょっと休憩しろ? お茶でも飲め」 ネヴィルが差し出したお茶をクリストフェルが手で払う。 「…茶なんか飲んでる場合じゃないんだよっ!!」 壁まで飛んだコップが音を立てて割れ、お茶がクリストフェルの膝にかかった。 「落ち着けって… まったく、そんなんじゃ思い出せるものも思い出せないぞ」 ネヴィルがコップの破片を拾いながらクリストフェルを見ると、口を開いたまま呆けたように前を見て呟いた。 「……思い出した」 「なんだって?!」 「思い出した…学院だ……あの時の上級生」 「生徒なのか?いつの?」 「あれはオレが初等部の時だ 寮の庭でかくれんぼしてたんだ…」 ***クリストフェルの回想*** 初等部の何年の時だったか忘れたが、クリストフェルは友人たちと放課後、初等部の寮の庭限定でかくれんぼをしていた。 (ここまで来たら見つからないだろう) 寮の庭の1番端、高等部の寮との境目のフェンスにある茂みに身を潜めた。 自分を探している友人が遠くに見えて笑いがこみ上げたその時、フェンスの向こうから煙たい風が漂ってきた。 見ると高等部の生徒が数人、フェンスの向こうでタバコを吸っているのが見えた。 当然、校則違反である。 父が王立警察ということもあり、正義感の強いクリストフェルが注意した。 「タバコは校則違反ですよ 未成年だから法律違反でもあります、すぐに吸うのをやめてください」 自分より遥かに年上である高等部の生徒に毅然と言い放ったが バシャッ!! 顔めがけてなにか液体がかけられた。 ヒャヒャッヒャッ  嘲るような笑いが起こる。 「ボクちゃん それお酒だよー?ダメでしょ~?未成年がお酒飲んじゃったら」 「ボクは飲んでない!お前らお酒まで飲んでるのか 学院に報告するからな!!」 「こわーい 怒らないでーん」ギャハハハ その後、学院に人相まで伝えて報告したが結局誰かとまでは特定できず、罰することができなかった。 ***クリストフェルの回想終わり*** 「あの時の上級生だ…間違いない」ジュリアスを見て確信を込めて言った。 「すぐに学院に行って ここ10年以内の卒業アルバムを持ってこい」王立警察官に命令した。 「あいつのネクタイの色は青かった、だから青ネクタイの卒業アルバムだけでいいです!」 騎士学院高等部は入学した年により使用するネクタイの色が決まっていて、その色は6色あり20歳前後で青色ということで、かなり限定されてきた。 「わかった よく思い出してくれた…礼を言う」 ジュリアスがクリストフェルの頭を撫で優しく微笑した途端、その両目から涙が滲んだ。 「…いえ!オレ…オレ…フェルになんかあったら…」緊張の糸が切れたかのように崩れ落ちたクリストフェル 「アルバムが到着するまで、少し休め… ネヴィ彼を別室で休ませてやってくれ」 ネヴィルがクリストフェルを抱えて部屋を出ていった。 (やっと手がかりを掴んだ…フェルもうすぐだ、迎えに行くまでどうか…どうか無事でいてくれ―――) 茫洋としていたジュリアスの瞳に力が戻ってきていた。

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