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3.裏紅*

 3階建ての紅楼の裏手には、発情期に入ったΩたちが過ごす場所が存在している。それは、花街の通りに面した楼と同じ形をしていて、3階からのみ渡り廊下で行き来することができる。上から見ればコの字型の構図をしていた。  娼妓たちの間では、通称”裏紅(うらべに)”と呼ばれている。  晴は熱くなってきた身体を自覚し、裏紅に入るために秋野を連れて渡り廊下を歩いていた。  「秋野、これから7日ほどよろしく頼むね」  「はい姐様。おまかせください」  娼妓の世話をする禿は、未だ発情期が来ていないものが務めるため、時期に左右されることなく発情期の世話もしていた。  基本的には食事の用意や、着物の手配など。7日過ごすために最低限必要なことを担当している。  けれど発情期にも個人差はあり、自分で対処できるものもいれば、前後不覚になりどうしようもなくなるものもいる。そのため、熱を鎮めるために介助をする禿もいた。  裏紅に近づくにつれ、そこで焚かれている香の匂いが強く漂ってくる。  「やはりこの匂いは好きじゃないね」  すんと匂いを吸い込みながら火照った顔をしかめる晴は、気持ちとは裏腹に悩ましげな表情に見えてしまう。  この裏紅には発情期の熱を抑えるための香が焚かれている。おかげで娼妓たちは、淫靡な雰囲気に呑まれることがなく過ごすことができた。  けれどそれらは効きに個人差があり、晴にはあまり効果がない。  熱く辛く、淫らな自分を鎮めるわけではないこの香りが、晴は大嫌いだった。  裏紅の入り口に立った晴は、秋野がからくり錠を開けていく様子を眺める。  一見装飾に見えるそれらを、上下左右に動かし時には押したり引いたりして、錠前を外した。鍵が外の人間に渡ることを恐れた楼主が、鍵穴を必要としない鍵を作らせたため、差し込むための鍵は存在しない。  楼のものだけが知る開け方だった。  引き戸を開けば、強くなる香りと既に発情期になっている娼妓たちの悩まし気な声。    自身の籠り部屋についた晴は、それに飲み込まれるように意識を手放した。      「....っぅ、あっ、はっ...んぅ」  何度目かの精を放ち、ずるりと孔から張り形を抜き出す。擦りすぎた前は赤く腫れ、後ろの蕾はぽってりと色づいていた。  どれだけ時間が経ったのか、ぼぅとした頭はうまく働かないが、発情期の一山は越えたようだと検討つける。  しばらく落ち着いたあと、発情期が終わる前にもう一度熱に翻弄されることにはなるだろうが、しばしの休憩がとれる。  「....あきの」  「はい」  部屋の外で待機していた秋野が、身を清めるための盥と一緒に入ってくる。  「お疲れさまでした。薬はどうされますか?」  身体を起こした晴の汚れをふき取りながら、赤くなってしまった肌に塗る薬はどうするかと問うてくる。  「今回は少し痛むから、塗っておく」  どうせまた少ししたら意味がないだろうけど、と呟く晴に秋野は薬の小瓶を手渡す。  「そうしたほうが、後が楽ですよ」  発情期明けのΩは、心身共に疲れているため2日ほどの休みが与えられる。その間に身体の調子を整え、客の相手をする準備をするのだ。  香が効かず熱に翻弄されてしまう晴は、自分で処理しなければいけないため、他のΩよりも身体の負担が大きい。  休みが明けてすぐに復帰できるように、発情期中も身体を労わる必要があるのだ。  「すぐにお食事を持ってきますね」  「梅干しが食べたい...」  「わかりました」  だるそうに呟く晴の願いは可愛らしく、いつもは美しく凛とした姐様が愛らしく感じてしまう。くすっと笑みをこぼしながら、秋野は部屋を後にした。

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