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第1話

傷だらけの身体を庇うように、空中で羽根を静かに羽ばたかせながらある鉄骨塔の中へ入った。 そこは、天空にそびたつ真っ黒の鉄筋の骨組みには安全を保障する手すりや柵などの装置など一つもなく、人が二人すれ違うことが出来るのもギリギリではあるが、何故か落ちることへの不安を感じさせない、まるで地にいる時と同様と感じるように周りを見渡せば、そこら辺を歩き回っていたりそれぞれに会話を楽しんでいる人々の姿がみてとれるそんな場所。 ふと俺の視界に入った、柱の近くで腰を下ろし外に向け足をぶらつかせている、あの人は底が見えない不安や、安全柵もないこの鉄骨に座って見ず知らずの誰かにもしかしたら押されるかもしれない可能性がある状況は怖くないのだろうかと疑問に思う。 また疑問はそれだけではなく、此処にいる者たちは人間なのかはたまた違う生き物の仮の姿なのか…点々と存在している人物達を目に敵なのか味方なのか少し意識してしまいながら周りを見ていたんだ。 何より、こんなに周りに対して意識してしまうのには理由があるんだ。それは僕が、ある人から隠れ逃げ回っている間に天空で見つけた場所であって、日頃から馴染みのある場所ではないってこと。 ここが果たして安全なのかもわからないけど、人々がいる場所に身を隠せるという安堵感がどこからともなく湧き上がってきて、周りを見ながらもふらふらと鉄骨の上を歩いていた俺は一つの囲いの中へと入っていったんだ。 そこからふと空を見上げてみた、鉄骨の外はどんよりした気持ちになるような雨雲。 ただ目の前にガラスなどないのに、まるで室内から曇ったガラス越しに外を見ているかのように目にフィルターがかかっている錯覚の中、雨が降っているのか降っていないのか判断がつかず、心が少しモヤっとしながら上空を眺めていたんだ。 あの人の存在がいないことに落ち着いた僕は思った以上にエネルギーが足らず認識力もだいぶ鈍っていることに気づいた。 少しでもエネルギーを回復したくて、何処か目立たない所に着地しようと辺りを見る。 ふと、あそこなら大丈夫じゃないかと羽根を羽ばたかせて着陸した俺に周りにいた者は誰も関心はなく驚きの声すらない。ただ、他人に興味はないんだと、理解できるほどに自分たちの空間を生きているように見て取れた。 着地した今いる場所から下を見ると螺旋階段の様に暗く、暗く深い闇に包まれ続いていた。 上を見渡しても下同様、空の色が見えることもなく内側も真っ黒な鉄筋の壁が続き天辺は暗く途方に続いていたんだ。 上も下も真っ暗闇にみえるけど、不安はなくて何処から湧いてくるのかわからない、今いる場所から天辺まではそう遠くはないと確信もないのに脳内で理解する。 ここなら大丈夫なんじゃないかと、本格的に雨が降り落ちていくザアザア音を聞きながらいつでも飛べるように広げていた羽根をしまい、鉄筋の影になる隅をみつけて、あの人に見つからないようにという気持ちも含めて柱に向かって体操座りをして、雨と風で、冷えた体を隠すように縮まったんだ。

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