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一章 望降ち -陸夜 かささぎの-
毎週金曜日、僕は小野が運転するスクーターに乗せてもらって大学から少し離れた図書館へ向かう。
この街で一番大きなそこは大学からだと傾斜のキツい坂をいくつも越えなければならず、バスや電車で通えなくはないのだが、どうしても頻繁には行き難い場所だ。専門図書の多い大学の図書館にも大変世話になっているが、少しばかり移動が面倒でもこの街の図書館が好きだった。
三限を終えた午後三時の駐輪場で小野と待ち合わせるのが習慣になって久しい。図書館の最寄り駅から藤崎家へは乗り換えもなく電車一本で、通勤にも問題はない。
週一の恒例行事は僕の楽しみの一つである。
駐輪場に着いたが人影がなかったので小野のスクーターを探す。高校生の頃に免許を取ったらしい彼は、アルバイトでも世話になっている伯父さんのお下がりだというそれを愛用している。黒い、二人乗りもできるそこそこの大きさの物だが、小野が長身なので少し小さく見える時がある。
見慣れた車体を見つけ、ナンバーで確かに彼の物であると確認してからシートに浅く腰掛ける。顔を上げると、校舎の影からちょうど小野が顔を出した。
「お待たせ!」
笑って駆け寄って来る彼に片手を上げて応えた。腰を浮かせると、小野が二人分のヘルメットを取り出して片方を寄越す。シート下の収納スペースにはいつからか薄い座布団も入れられていて、それを二つ折りにして荷台に乗せた上に僕が座る。
「行こうか」
「あぁ。頼む」
小野の安全運転で、目的地までは十五分程の道程だ。初夏の陽気の中、頬を撫でる風が心地良かった。
街で一番大きな図書館と言っても、入り口から見ると少し小さく見える。入ってみれば、大きな吹き抜けのガラス窓に迎えられる解放感のあるなかなか居心地のいい場所だ。閑静な住宅街、車の通りもほとんどないその建物の前にスクーターを停めてもらって降りる。
「……ふう。ありがと、う」
ヘルメットを外して返すと、小野が受け取ったのとは逆の手でここ数日で見慣れた札を差出した。
「今日、夜から朝方までバイトなんだ。草町が帰る頃に行けるかわかんないし、こないだみたいに待たせるのも悪い、んだけど……」
差出された札を受け取ろうとしたら、ひょいと避けられてしまった。悔しいのと申し訳ないのが半々くらいの顔で、ごにょごにょと口の中で何か言っている。渡す気がない物を受け取る必要はないと判断して、僕は彼を放って入り口へ向かって歩き出した。
「送ってくれてありがとう。じゃあ、夜にな」
「え?草町!?ちょ、待って……え、夜?」
「待つって言っただろう。向こうを出る頃メールする」
「……!」
図書館に入る直前、軽く振り返ったら小野の顔がまさに茹蛸で少し笑った。
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