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間章
残暑厳しい夏の終わり。
太陽は世界を白く染めあげて、少年の意識を蝕んだ。色と音が少しずつ、けれど確実に遠のいていく感覚。
じーわ、じーわ、と五月蝿かったはずの蝉時雨が唐突に止んだ。耳鳴りすらしない無音の中で、聞き慣れない声が少年を掴んだ。
「大丈夫?」
まっ白だった世界に、絵の具を数滴落としたように部分的に色が咲いた。彩度のないそれに、翡翠の輝きを見た。
――鮮やかな、黒。
「……うん」
その一瞬、少年の世界を占めた黒は手を伸ばし、いつの間にか膝をついていた少年を立ち上がらせた。ふらつきながらもなんとか立った少年の頭にはいつの間にか帽子が乗っていて、その鍔が意図せず引き下げられると、視界は狭まったが見える色は増えた。
「それ、あげる」
眩しいくらい白い手に腕を掴まれ、少年は導かれるまま歩き出した。働かない頭を持て余しながら、もたつく足を動かした。
掴まれた手の冷たさだけがリアルで、さっきの黒が現実味と引き換えに少年の心を染めた。
熱に浮かされて見た夢のような、けれど確かに何かが生まれた、夏の果て。
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