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第55話 大切な人

 戻ってきたウサギのマスコットを胸に、保が温かな幸せに満たされていると、ふと橘が呟いた。 「実はさ、新しいウサギをオレが作ろうかとも考えたんだけどね」 「えっ……?」  彼の言葉に保はびっくりしてしまった。 「でも作り方が全然分かんなくてさ、ネットでマスコットの作り方とか検索してみても、よく分からないし、オレのウサギを見て、どんなふうに作られているのか知ろうとしても、やっぱりまったく分からないし」  そんなことを言う橘に、保は胸の奥から愛しさと切なさが込み上げてきて、また泣いてしまいそうだったから、涙を笑いに変換した。 「あはは……」  橘は保の肩を抱き寄せて、囁いた。 「保、今度、オレにマスコットの作り方教えてくれる?」  再びびっくりして、彼の顔を見る。 「え? 本気ですか!? 先輩」 「んー、半分本気、半分冗談、ってところかな」 「……どっちなんですか?」  保がちょっぴり拗ねた顔をしてみせると、 「だってさ、保に個人レッスンなんかしてもらったら、オレ、途中でおまえのこと押し倒してしまうから、多分、いつまで経っても、マスコット作りは覚えられないと思うし」 「……先輩ー」  保が真っ赤になってしまうと、橘は頬にチュッとキスを贈ってくれた……。

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