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第54話 帰ってきたウサギ
次の日の昼休み。
保は橘から、昼休みに部室へ来るように、というメールをもらった。
なにか急なミーティングでもあるのかと思い、部室へ行くと、中にいたのは橘一人だった。
「橘先輩? どうしたんですか?」
彼の傍へ行くと、橘が保の目の前へ手を差し出した。
そこには――、
「あっ……?」
昨日、失くしてしまったウサギのマスコットが揺れていて……。
「これ……」
目を丸くして驚いている保へ、橘はにっこりと笑ってみせる。
「今朝、あの裏庭を探してみたんだよ。そしたら、少し離れた草の上に落ちてた。ちょっと土がついていたから、一応軽く洗ってあげたんだけど……」
「先輩……」
保の胸に温かいものが込み上げてくる。
先輩はなんでもないことのように、さらりと話しているが、きっと早起きして一生懸命探してくれたんだ……。そして丁寧に洗ってくれて……。
……僕のために。
保は涙があふれてくるのを抑えることができなかった。
なんて、優しい先輩……。
「保? 泣くなよ……」
橘が少し、困ったような口調で言って、保の涙を綺麗な指でそっと拭ってくれる。
「ほら、ウサギ。またスポーツバッグにつけてやれよ」
保は彼の手からウサギを受け取った。
「本当に、ありがとう、先輩……。おかえり、ウサギくん」
ウサギのマスコットを両手で包み込み、言葉を贈った。
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