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第53話 優しいキスと、なくしたマスコット

「本当に、本当に来てくれて、うれしかったです……。それに先輩、すごくかっこよかったです。なんか、正義のヒーローって感じで」 「バカ! オレは本当にすごく心配したんだからな……!」  橘に真剣な顔と声で叱られて、保は反省した。 「……ごめんなさい……、僕……」  しょげた保を見て、橘はハッとした。 「ごめん。おまえを怒ってるわけじゃないんだ……。ただ、本当に心配だったし、クソ野郎共に押さえつけられてる保を見たとき、マジで気が変になりそうだったから」  彼の手がそっと保の頬に触れ、 「先輩……ん……」  そのまま唇が重ねられる。  優しい、優しいキスだった。  美少女たちのひどい言葉への腹立ちも、男たちに押さえつけられたときの恐怖も、すべての嫌な記憶を塗り替えてしまうような……、優しくて、甘いキス。  少し大きめの橘のシャツに着替えて、体操着をしまうときに、保は思い出した。 「ウサギのマスコット……」 「え?」  橘が聞き返す。 「僕が作ったウサギの……、先輩とお揃いのウサギのマスコットが、どこかへ行っちゃった……、カバンを振りまわして抵抗しているときに紐が切れて……そのまま……」  中学一年のときに初めて作ってから、ずっとつけていたウサギ。先輩とお揃いでもあるウサギ……。  たかがマスコットの一つのことだと言われてしまえば、それまでだけど、いつもスポーツバッグにぶら下がっていたウサギの不在は、保の心をひどく寂しくさせた。  泣きそうな顔になってしまった保を、橘はそっと抱きしめてくれた……。

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