橘は怒っていた。それこそ美少女たちを、力任せに殴り倒してしまいそうなくらいに。 「先輩、ダメですっ」 　保は叫んだ。 　保も彼女たちには腹が立っていたし、許せないとも思う。 　先輩が助けに来てくれなかったら……と考えるだけでも恐ろしいし、おぞましい。 　それでもやっぱり、女の子に本気で手をあげることはしてはいけないと、保は思うのだ。 　しかし橘は美少女の前に行くと、その手を思い切り振りあげ、ビクッと身をすくませた彼女の頬を張り倒す……直前でその手はとまった。 　空気を凍てつかせるような冷たい声で、橘は美少女たちへ言い捨てた。 「今度、保になにかしようとしたら、女でも構わずぶん殴るからな……」 　彼の迫力に、彼女たちは泣き出したが、橘はまったく無視をして、保の傍へ戻ってきた。 「……大丈夫か？　保、立てる？　抱いて行ってやろうか？」 　打って変わった心配そうな声で、そんなことを言う。 「だ、大丈夫です。立てますから」 　でも立ってみると、まだ膝がガクガクしていて、結局、橘に支えてもらうようにして、その場を去った。 　そのあと、部活動には出ず、橘の家へ行った。 　彼の部屋に落ち着くと、あらためて体から力が抜けてしまった。 　ぐったり座り込む保に、橘はホットミルクを入れてくれ、制服のシャツの予備を貸してくれた。 「オレのだとちょっと大きいけど、体操着に制服のズボンっていう格好よりはマシだろ？」 「ありがとう、先輩……」 　彼のいい香りがふわりと染み込んだシャツを、ギュッと抱きしめて、保は泣きそうな気持ちで呟いた。