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第1話

「ムカツク!すごいムカツク!!もう許せない!!」  学校法人藤光学園。都内でも屈指の進学校であるこの学園の高等部、一年D組で、吉岡茉莉香は先程からおかんむりである。  それはそうだ。先程の化学の時間に、最低最悪のことがあったのだから。  一時間目、茉莉香は科学などどうせ自分には関係のない教科だと、せっせと内職に励んでいた。同じクラスの漫研部員の杏ちゃんから回ってきた「カップリング表」を今日中に仕上げたい。自分の好きなカップリングとその傾向やシチュエーションを十個書いたら、次の漫研の部誌で、杏ちゃんがその中からどれか描いてくれると言ったのだ。 「それから横井くんと高橋くんは外せないよね。横井くんは魔性受けだから……」  その時。 「何面白そうなモン書いてるんだ」 「お、大竹……!!」  いつの間に近づいていたのか、化学教師の大竹が後ろからその紙を取り上げた。  ヤ、ヤバイ……!夢中になってて気がつかなかった!よりにもよって大竹……!! 「ずいぶん一生懸命書いてたな。どれ?『大竹先生のネクタイ似合ってないよね』? うるせぇ、ほっとけよ。『あたしならもっともっとステキなの探してあげるのに』? そりゃありがとよ」 「そんなこと書いてないです!!」  必死に紙を取り返そうとしても、バカみたいに背の高い大竹が頭上に掲げてしまえば取り戻すことはできない。 「『きっと選んでくれる彼女もいないんだわ』? その通りだよ悪かったな」 「だから、書いてないってば!!」  大竹はその紙を白衣の胸ポケットにしまい込み、「放課後まで没収な。つうか、授業も聞かずに余裕だな」とせせら笑った。 「ど、どうせ来年になったら文系コースに進むんだから、科学なんて勉強してもしょうがないでしょ!」 「はぁん?来年二年に上がれたらな?」 「な…っ!!留年なんかしないモン!!」 「また来年科学の授業受けるときには、俺のクラスじゃなきゃ良いけどなぁ」  楽しそうに笑いながら教卓まで戻ってきた大竹は、教科書に目を落としながら、更になんでもないことのように付け足した。 「吉岡、返却時に罰プリント十枚渡すから、一週間以内に提出しろ。じゃあこの板書消すけどみんな書き写したな?」 「待って先生!」 「早いよ!!」  みんな茉莉香のことを気の毒に思いながら、それでも大竹の授業中に内職なんて自業自得だ、勇者か!と胸の中で突っ込んだ。

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