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俺に甘えてみませんか。

「は!?ごめん、も一回言ってくれ」 「甘えてください」 「誰が誰に」 「遥さんが俺に」 月二回休みになる内の一回目の土曜日の前の晩、俺の部屋に帰ってきた途端侑司が変な事を言い出した。 まだ2人共スーツはおろかネクタイすら外していない。 「あ、甘え?俺がお前に?」 うん、と頷く侑司の頭を軽く叩く。 「気持ち悪いこと言うな」 ネクタイを緩める俺の手を侑司が掴む。 「気持ち悪くなんかないです。遥さん、酒に酔った時しか甘えてこないでしょ、素面で甘えてくるのが見たいんです」 着替えるため立ち上がったままの俺を、ソファに座った侑司が見上げる。 普段見上げてばかりの侑司の顔が下にある違和感。 会社では、他の人の前では見せない眉を下げた情けない顔が可愛く嬉しいと思うなんて俺も相当危ない。 「甘える遥さん、すっげー可愛いんですって」 俺の手首を掴んだまま侑司が思い出したかのようにデレっと顔を歪ませた。 「か、わいいって、お前…」 あと二年もすれば三十路を迎える男に可愛いもくそもある訳ないと事あるごとに言っているが、この男には何一つ響いてないらしい。 それに加えて、もしかしたら、と最近思い始めた。 俺はこいつに甘い、のかも。 なんやかんやで結局許してしまっている、気がするのだ。 「甘えるって、例えば」 侑司の方を見ないようにしながらネクタイを緩め襟から引き抜く。 家に帰るとスーツなんか一秒でも早く脱いでしまいたい。 それを妙な申し出に足止めされたんだ、もう一気に着替えてしまおう。 何やら考え込んだ侑司を置いて寝室に入る。 ジャケットとスラックスを脱ぎハンガーにネクタイも一緒に掛け、部屋着に着替えると一気に家モードに切り替わった。 侑司の部屋着も出し、スーツを掛けるハンガーを手にリビングに戻ると侑司はまだ考え込んでいた。 「侑司、とりあえず着替えろ」 部屋着をすぐ横に置きハンガーを手渡すと一言礼を言って立ち上がった。 コーヒーを入れるために入ったキッチンから着替える侑司が見える。 ネクタイを抜く仕草が恐ろしく色っぽい。

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