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俺のだって言っていいですか。
遥さんはモテる。
老若男女関係なくモテる。
こないだ登録して無事スーパーの試食販売員の面接に合格した柴川さん48歳女性が箱菓子を持ってお礼に訪れている。
「僕はいつもの仕事しかしてないですから」
押し倒されるほどの勢いの柴川さん48歳女性の前で手を振りお礼を丁重に断っている。
お客さんの前では僕という遥さん。
案外口が悪いのを知っているのは俺だけではない。
僕と言うたびに響子さんがニマッと笑いを堪えているし、
泰生さんは眉間に皺を寄せ後ろ頭を掻いている。
「水元さんがしっかり話ししてくれてたから希望通りのシフトになったんです!だから嬉しくて。
ね?ただのお礼だから」
柴川さん48歳女性は案外しぶとい。
箱菓子を遥さんの胸にぐいぐい押しつけている。
「お菓子がダメなら、夜食事でもどう?」
「そこまでおっしゃっていただけるのでしたら、遠慮なくお菓子いただきますね」
完璧な営業用スマイルを浮かべそう言った後、申し訳なさそうに眉を下げた。
「お客様と個人的なお付き合いをするのは規則でダメなんです。残念ですが、申し訳ありません」
規則なら仕方ないわよね、と柴川さん48歳女性は渋々ながらも納得した様子で帰っていった。
遥さんが担当するお客さんはこうした礼に訪れる人が多い。
面接とスキル確認が主な仕事の遥さんだが、
ぎりぎりの人数で回しているこの会社だから、
時々営業のような仕事をする時もある。
時給アップや残業時間の短縮など、派遣会社の電話や会社支給されている携帯電話が一日中鳴っている。
会社とお客さんの間に入るのが俺たちの仕事だが、その仕事を主に引き受けているのは泰生さんと響子さんだ。
2人ともそれぞれ結婚していて家庭がある。
「ねぇ遥くん、結婚指輪したら?」
響子さんが自分の左手をひらひらさせながら遥さんに言う。
「それいいな」
泰生さんもうんうんと頷く。
「既婚者狙いの人もいないことはないけど、牽制、虫除けにはなるんじゃない?」
あぁ、と曖昧に返事をした遥さんがちらっと俺の方を見た。
「もういっそのこと本当に結婚してもいいんじゃない?まだ彼女いないんだっけ?」
響子さんの言葉に苦笑いを返す遥さん。
その後でまたちらっと俺を見る。
気にしてくれてるんだと思うと勝手に顔がにやけた。
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