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俺の心臓は元気ですか。
兄と侑司が顔を合わせてから一週間。
朝昼晩と電話がかかってくるようになっている。
侑司はその都度心配そうな顔で俺を見る。
このままでは不味い。
忙しい兄になんとか時間を作ってくれとせがんだ。
兄と話をする時間を貰ったのはそれから4日後の夜。
騒がしい居酒屋にいるのに、静まり返るこれまでにない空気の重さと兄の固い表情に場を濁して逃げ出したくなる。
「何の話だ?血迷ってごめん?それとも」
「侑司とのことで謝ることは何もない」
兄の言葉を遮って口を開いた。
「謝るとすれば、兄ちゃんを悩ませてごめん、それだけ。認めて欲しいとは言わない、それは俺の勝手だ。
認められないなら、連絡は、してこないでほしい」
「遥、お前、兄ちゃんよりも侑司くんの方が大事なのか」
そんなの比べられない、比べたくない。
付き合って半年足らずの侑司とより、兄との思い出のほうがあふれるほどにある。
いつもいつも自分のことより俺を優先してくれた優しい兄。まるで自分のことのように自慢だった兄。
一緒に暮らさなくなった今でも何かにつけ連絡を寄越し、世話をしてくれる。
両親が共働きでかまってくれない分兄が父であり母だった。
俺を作り育ててくれたのは兄だ。
感謝も尊敬も多分にある。
たけど、それでも。
「この先もし別れることがあったとしても後悔しない。今嘘をついてあいつを傷つけて別れる選択はしない」
兄を睨むように見つめて言った。
「連絡とれなくなっても、兄ちゃんが兄弟の縁を切ったとしても、俺の中で兄ちゃんはずっと兄ちゃんだから」
きつく眉を寄せ辛そうな表情の兄。
そんな顔をさせてしまっている自分に唇を噛んだ。
甘く考えていた。
もっと言えば何も考えてなかった。
お互いが好きならそれでいいと思っていた。
こそこそとするより話してしまおう、と会社で明かしてしまった時も、受け入れてもらえたことが奇跡だったのか。
今になってあれこれと深く考えても、侑司のことを諦めるという答えは出せない。
遥さんと呼ぶ声と柔らかい笑み。
髪を撫でる大きな手。
全身を包み込む体温。
好きだと言われるからだけじゃなく、側にいることが心地良いと思える。
何度キスをしてもされる度に暴れる心臓に、
触れたいと自然に伸びる腕。
きっともう、あいつより俺の方があいつに惚れてる。
兄からの連絡にため息をつく俺を辛そうに見る侑司が、別れましょうと口にしてしまうかもしれない。
それが何より怖い。
そんなことはしたくない、させたくない、言わせたくない。
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