「侑司は俺の生涯のパートナーです。俺は侑司以外とは結婚しない」 お父さんを見ながら遥さんが強い口調でそう言った。 「子供ももうけられないのに何がパートナーだ！」 「子供をもうけることが人間だと言うなら、なぜ異性ではなく同性に惹かれる者がいると？」 「そんなものは頭がいかれてるんだ！」 肩を上下し、激しく憤るお父さんを見て遥さんが嘲笑うように息を吐いた。 「世の中の人間がみなあなたの思う通りに生きていく訳じゃない」 それに、と遥さんが真正面からお父さんを見据えて続ける。 「侑司に惹かれたことを否定されたくない」 お父さんが息を飲んだのがわかった。 遥さんが俺を振り返る。 俺を見上げた顔は今にも泣き出しそうに歪み、それなのにごめんなさいと謝りながらも笑ってみせた。 「やっぱり簡単にはいかないな。お父さんたちに謝らないと」 「謝る必要はないですよ、だって」 諦めてはないんでしょう？ 口には出さず問う。 問いながら遥さんの頬にほんの少し指を触れさせると、遥さんは小さく、でもしっかりと頷いた。 「しつこさやしぶとさは誰に似たん？」 それまで一言も話さなかった華さんがぼそりと呟くように言うと、 それを聞いたお母さんがふふっと小さく笑った。 「正さんよねぇ」 「うるさいっ！そんな訳あるか！」 「あら、あなた昔から遥は俺似だから苦労するだろうなぁってよく言ってたじゃない」 「そんなこと言った覚えはない！」 「都合の悪いことはすぐそうやってごまかすんだから」 「紀（きみ）もう黙ってろ！」 「はいはい」 お父さんはそのまま奥の部屋に足音も荒く引っ込み、その後ろ姿が見えなくなるのを見届けたお母さんが俺たちに向き直り深く頭を下げた。 「不器用な人でごめんなさいね」 深く皺の刻まれた優しげな目元に涙を滲ませながらお母さんが言った。 「今朝遥が来るって話してから本当に来るのかって何度も何度も聞いてきたのよ、お父さん。 ただ、縁を切る勢いでもう帰ってくるなって言った手前簡単には折れられないんだと思うの」 ここにもわかりにくい人がいたのか。 そう呟いて遥さんがふはっと笑った。 「大丈夫だよ、母さん。昔より耐性ができてるから。それに諦めずに和解するって侑司のご両親と約束したんだ」 遥さんの笑顔にお母さんの目尻からとうとう涙が伝った。 「遥を……どうか、どうかよろしくお願いします」 震える声で俺に向かいそう言うと、お母さんはさっきよりも深く深く頭を下げ、長い間頭を上げようとはしなかった。 「…はい」 胸に込み上げるこの気持ちはなんだろう。 涙を連れてくるその思いに、 生涯大切に寄り添います、と言いたかったのに、泣いてしまいそうでせめてもと思いを込めた返事しかできなかった。