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四空間目⑥

「ひぃ…っ!」 引っくり返った蛙のような体勢を無理矢理取らされ、上から膝を押さえつけられてしまい、完全に逃げることが不可能になってしまった。 神田さん側からは全てが丸見えなくらいに脚を開かれている。死にたいくらい恥かしい。こんな形で身体が柔らかいことが仇になるとは思いもしなかった。 「やだ!やだッ、…やだぁ!」 今からされることが分からないほど俺は初心(うぶ)でもなければ鈍感でもないので、今自分の置かれている状況が怖くて堪らない。 とにかく目の前に居る神田さんが怖くて怖くて号泣しながら必死で抵抗した。神田さんの肩をバシバシ叩いたり、首元や喉元を爪で引っ掻いたりするものの、俺の抵抗なぞ神田さんからしたら猫がじゃれている程度にしか思わないのだろう。 神田さんからは怒った様子も微塵に感じ取られず、「痛えよ」と苦笑された。なぜだか急激にグワッと顔が熱くなる。多分馬鹿にされているように感じたからだと思う。 ……俺はこんなにも恥かしくて怖くて堪らないというのに。 正反対に神田さんは…、すごく楽しそうだ。 「ひ…ッ!」 急に睾丸や肛門周辺に勢いが強いままの熱いお湯をシャワーで掛けられる。力を入れなければお尻の穴にお湯が入ってきそうで、俺は肛門に力を入れる。 「…すげえ眺め」 「な…っ!?」 その様子を舐めるように見られていることに気が付いた俺の頬には未だ止まらない大粒の雫が伝う。力を入れて収縮するように蠢く穴は卑猥に見て取れたかもしれない。だからといって力を入れるのを止めればお湯が入ってきて大変なことになりそうなので止められない。何という悪循環。 本当に、…本当に犯される。 俺、男なのに。何で、何で…っ。 やっと水圧が止まったかと安堵したのも束の間、次はひんやりとした感触がそこを襲う。 鼻孔をくすぐるその匂いから、俺達がいつも使用しているボディソープだとすぐに分かった。…用途は嫌でも分かる。 「嫌だ!やだっ、やめろ!」 洗浄かつ、穴を解しやすくするためだろう。 それを辺りに塗り込むように指の腹で刺激されれば、恐怖は極限まで高まって言葉になりきれない声が自分の意思とは関係なく口から漏れる。 俺だけではなくこんな状況に置かれれば誰だってそうなってしまうはずだ。自分より遥かに地位も容姿も高い強靭な体付きの男から、熱の籠った目で見下ろされて穴を弄くられれば。 「ひ、っ…ふ、ふ…ッ、ぁ、う」 犯される。嫌だ。嫌だ。止めてくれ。 液体でヌルヌルになっていく穴から嫌でも目が離せなくなった俺は頭の中で必死に懇願する。 「…有希」 しかし、ふと名前を呼ばれて俺は視線を上げざるを得なくなった。 神田さんも俺を見ているので視線はぶつかる。 ……だって神田さんから名前を呼ばれるのは初めてで。 ああ、俺の名前覚えてくれてたんだということに感動するより早く、神田さんの指が俺の中に強引に入り込んできた。 「ひぎ…ッ」 気遣いも躊躇いも一切無く、強引に入り込んできた。 しかも俺より太くて長い指を根元まで一気に二本もだ。痛くないわけがない。 ボディソープの滑りのお陰で流血沙汰は回避出来たのが唯一の救いといったところか。 「いたい!痛いって!」 しかしそんな最低限のことを回避出来たとしても嬉しくもなんともない。 広げられている穴は痛いし、異物感で堪らなく気持ち悪いし最悪だ。 「ふ、っ、んぐ、抜いて、くだ、さぃ…ッ」 この穴は入れるところではない。出るところなのだ。 大体この行為に無理が有り過ぎる。準備も少な過ぎれば、愛は一切無い。 受け入れろという方が無理な話。 「嘘吐け。有希の中すげえよ。俺の指が美味いって食いついてきやがる」 「……ッ、」 興奮を抑えきれないのか、ハァハァと熱い吐息混じりに耳元で囁かれれば、羞恥で死にたくなる。何で神田さんは俺なんかで欲情してやがるんだ。全く持って意味が分からん。 「うわ…!?っ、ひ、ゃあ、ぅ」 グチュグチュグチュグチュ 今まで動きが無かった神田さんの指が俺の体内で、卑猥としか言い様のない水音を立てながら動き出す。吐き気がするほど気持ちが悪いのに、指の腹が腸壁を刺激する度に下腹部が熱くなる。 「あ、あ、っ、ひ、ぁ」 出したくもないのに、変な声が出てしまうのはなぜだ。両手で口元を覆って我慢するも、自分のものとは思えない甲高い声が漏れる。 グチュグチュグチュゴリッ 「ひぃッ!ぁ、ふ、っ…ぁあぅ?」 ど、どうしよう。 「っ、ん」 嫌なのに、これは立派なレイプなのに。 「ふ、ぐ、ぁひ、ぃ」 …腸壁を指の腹で乱暴に擦られると堪らなく気持ちが良い。 「そ、それ…っ、だめ、だからァ、ひ、ぃっん」 言葉を紡げば口の端から涎が零れ落ちた。自分の感情を誤魔化せないほどに、今の俺の顔は蕩けているだろう。 ただの苦痛でしかなかったのに何でだよ。おかしいよ俺の身体…っ。 「っ、ン、ひ、っ…ふ」 俺の淫乱雌豚野郎ッ。 体型だけでもなく肉欲でも堕ちやがって。何と耐性のない身体なのだ。 「か、んだ、さん、も、ッ、やめ、ん」 「…はっ、本当に止めていいのかよ」 「あ、あ、ぁあッ、ひゃ」 バレてる。俺の弱いところを手に取るように知られている。 抜き挿しをする度に指の第一関節を曲げられるものだから堪らない。 「ふ、っぁあ、ひッ」 俺は男なのに以前AVで見た時なようなことされているんだ。 女優のように激しく指マンされてアンアン喘いでいる俺の姿は、非常に不愉快で気持ち悪いはずなのに、目の前の男はすごく楽しそうで、それでいて嬉しそうだ。 「やだ、やだ、ッ、や、ぁだ…」 「下の口も食いしん坊か?おらっ」 「ひぃあぁ!」 違います。上の口は確かにどうしようもなく食いしん坊ですが、下の口はそんなことありません。有り得ません。というか俺には下の口なんて存在しません。しかもこれって「言葉責め」なのか?全然嬉しくない。興奮しない。むしろ泣きたい。俺マゾじゃないし、女でもないもん。 そうやって冷静に突っ込みを入れたいはずなのに、今の俺の上の口は使い物になりそうにない。言葉を紡ぎたくても汚い喘ぎ声が邪魔してしまうからだ。 「ふ、っ、ふァ」 もう俺一生強姦物のAVも見ないし、エロゲーも買わない。 あと面白がってホモスレも覗かないことを心に決めた。 そんなことを決心している間に、俺のケツの中の指が二本から一気に四本に増えた。 なぜにこの人は順序を踏まないのだろうか。二本だったのなら次は三本のはずだろ。いや、一本もいらないけれど。 「ああぁあァッ」 「狭い穴だな、おい」 「あ、たり、まえ…ッ、ンぅ」 「…はぁ、くそエロい」 グチュッ、ジュチュッ 「っ、んああぁ!」 神田さんが指の動きを激しくする度に、ボディソープが泡立つ。こんな姿はまぬけでしかないはずなのに、泡と泡の隙間からヒクヒクと収縮する穴の様子が垣間見えるのは酷く卑猥だ。 神田さんは俺の中に指を入れたまま、お湯で泡を洗い流していく。

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