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六空間目①
あの悪夢のような濃厚で濃密な出来事から一週間が経った。
つまり、今は八月の二週間目後半だ。
「………」
あれからというものの。
やたらと神田さんがウザイ。
やれ、ヤラせろだの。やれ、ケツを揉ませろだの。
毎日セクハラが絶えない。というよりも、スキンシップが激しいのだ。
「こら、逃げんな」
「………」
今もなぜか、俺に軽く寄り掛かりながら新聞を読んでいる。
「(…肩凝った)」
逃げようと少しでも動けば、すぐにお叱りの言葉が飛んでくる始末。
それなりに広い室内。こんなに密着する必要があるだろうか。…否、ない。
寄り掛かりたいのならば、そこにあるソファに座ればいいだけの話だ。それかもしくは壁にでも寄り掛かって座ればいいのに…。
「(まあ…あの頃のように、誰かに避けられるよりかはいいのかもしれない)」
自分という存在が許されているように思えるから。
「(だけど神田さんは……、俺のことを必要だとは思っていないだろう)」
もし必要だと思われているのならば、この密室空間で「唯一の穴」だからだ。つまりは、ただのダッチワイフ程度にしか思われていないだろう。
「(…だけどただの穴としか思っていないのなら、こんなことするだろうか……)」
俺には恋人が居たこともない。というよりも、誰かを好きになったのだって小学生の時以来、一度もない。
だから人の気持ちや、人間関係の有り方などは詳しくないけれど、今のこの状況はまるで「恋人同士」のみたいだとボンヤリと考える。
「(男同士って、こんなに密着するもんなのか?)」
親友同士で肩を組み合うのと同じものだろうか。ここには俺と神田さん以外の労働者(?)が数ペア居ると思うけれど、俺達のようにこんなことしているのかな?
こうやって密着して隣同士で座ったり、布団をおもいっきりくっ付けて寝たり、セックスまではいかなくても、扱き合い程度なら普通にやってのけるのだろうか。
「…………」
そんなベタベタする友達なら、俺は一人の方がいいかな。
一人に慣れきっているからかもしれない。こうして肩や腕が触れ合うだけでも、息苦しい。
「おい、離れんなって」
「……だって、暑いし」
“邪魔だ”とは正直に言えなくて(言ったら最後、性的な仕置きをされそう)、ゴニョゴニョと当たり障りのないことを理由にしてみたのだが。
「エアコンの温度下げればいいだろ」
「…………」
バッサリと一刀されてしまった。
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