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六空間目②

……そして。 スキンシップが激しくなったのは、室内だけではなくなった。 それは三日に一度の運動の日だってそうだ。 神田さんは俺から一切離れることはなくなった。そしてなにより“あの気持ち悪いくらいの営業スマイル”を止めたのだ。 「あの、神田さん!」 「ま、また一緒にバスケとか、どうっすか!?」 「バスケがお嫌いなら、サッカーとかでもいいっすよ!!」 「………チッ」 「(また新たなる被害者が増えるなぁ…)」 以前ならばニコニコ顔で丁重に断っていたが、今では相手の顔すら見もしない。それどころか、めちゃくちゃウザそうな表情をして舌打ちまでする始末。 「…うぜえな」 ひっくい声で呟いた神田さんの言葉は、男達には効果抜群だ。 「ヒッ!?」 「す、すみませんんん!!」 神田さんの舌打ちとその言葉に、男達は一斉に走り去った。…というよりは、逃げたというべきか。 …しかしなぜに皆一様に、逃げる際に俺を睨み付けていくんだ……。 「(いったい俺が何をしたという…)」 むしろ一番の被害者だ。凶悪デカ物でレイプされたいのならば、俺と部屋を替わってくれてもいいんだぞ。むしろ替わってくれ。 「ハァーッ」 ふっかい溜息を吐いて、心を落ち着かせる。 ケツと腰の痛みは時間が経てば癒えたのだが、心は全然癒されない。というか、癒される暇がない。日中同じ部屋に居るし、セクハラも酷いし、心が荒くれる一方だ。 「……いいんですか?」 「あ?何がだ?」 「もうすぐ八月も終わっちゃいますよ。今はPCも携帯もないから、この事実は世間には広まっていないけれど、あの人達が外に出たら、……神田さんの本性がバレちゃいますよ?」 今後神田さんが芸能活動を続けるのか、続けないのか分からないし、それについて何も口出しする権限もないので、どうするのか聞けない。だけど今まで猫を被っていたのなら、そのままそれを続けるに越したことはない。…だってその「猫を被っていた」神田さんのキャラが、世間にはウケていたのだから。 「別にどうだっていい」 「……で、でも」 「…ああ、そうか。お前も“テレビの中の俺”が好きだって言ってたな」 「うっ…、」 一ヶ月も前のことなのに、覚えていたのか。というより根に持っていたというべきか? 「どっちの俺がいいか?」と訊かれて俺は「テレビの中の神田さんが好きでした」と答えた気がする。……曖昧な記憶だが、間違っても「オラオラで鬼畜な神田さんが好きです(ハート)」なんて答えるわけがないので、それで合っているだろう。

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