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六空間目④

「先にシャワー浴びますか?」 ダラダラと芝生の上に座ったまま一緒にボーっとしたり、お喋りをしたり、キャッチボールをしたりと、それなりに有意義に時間を潰した俺達は部屋に戻ってきた。 あまり激しい運動はしていないが、真夏のこの時期だ。外で少し動いただけでも、汗を掻いてしまう。 「先に入ってていいぜ」 チラリと神田さんを横目で見てみれば、デブの俺のような、じめっとした汗の掻き方ではなく、いかにも爽やかなイケメン(見た目だけ)らしく、スポーティかつ色気ムンムンな汗を垂らしている男が居た。 「では、お言葉に甘えて俺が先に入りますね」 「ああ」 てっきり「俺より先に風呂に入るんじゃねえ」と何処ぞの亭主関白な男のような台詞を吐かれると思っていたのだが、…そう言ってくれるのならば、嬉しいことはない。早く汗を洗い流してサッパリしたいからな。 だが後で変な言い掛かりをされない内に、なるべく早く風呂から上がろう。 「…ふぅ」 リビングと繋がっている、ユニットバスルームの扉を閉めて溜息を吐く。 一ヶ月以上経っても、この「鍵の付いていないシステム」は落ち着かないが、文句を言える立場ではない。 (同室者の運が良ければ)これ以上最適かつ楽なアルバイトはないのだから。 シャッと、トイレと浴槽を仕切る透明のカーテンを閉めて、俺は浴槽の中に入り座り込んだ。そしてシャワーヘッドを掴み、頭から水を浴びる。 「っ、冷た…」 だが自分が思っていた以上の水の冷たさに、思わず身震いしてしまう。いくら今が夏だといっても、これはあまりにも冷た過ぎる。 ……温めのお湯に温度調節をしようと、水が入らないように目を閉じたまま手を伸ばした時だった……。 「……、ヒッ!?」 調節器を触れる前に、手を掴まれたのだ。 「な、っ、…な、何?」 お化けとか幽霊を真っ先に想像して恐怖に支配されてしまったものの。 ……一番真っ先に思い浮かべなくてはいけない相手が、この場には居るじゃないか。 「か、神田、さん!?」 目を開けて俺の手首を掴んでいる相手を見てみれば。 案の定、そこには神田さんが居た。 …しかも、もっと詳しく言えば、全裸の神田さんだ。 「え?っ、ちょ、えっ?」 突然の乱入に怒りよりも、驚きの方が勝った俺は、とりあえず神田さんの身体を直視しないように、バッと視線を逸らした。 「な、何してるんですか!?」 それと同時に、自分の醜い身体を隠すように背を向けて、身体を縮め込ませる。 それだけでは何の対処も出来ていないかもしれないが、これが今の俺に出来る唯一の行動なのだ。 「先に入っていいって、言ったのは神田さんですよ!?」 「だからだろ?」 「…は?」 「俺は後で一緒に入るという意味で言ったんだがな」 「………、なっ!?」 そ、それならそうと、ハッキリと言ってくれ!!! “先に入ってていいぜ”と言われて、誰が後から一緒に入ると思うものか!!そんなものが通じ合うのは、バカップルくらいだろ!! それが分かっていたら、俺は絶対に先に風呂に入らなかったぞ。 神田さんが風呂から出たのを確認して、数十分経ってから入っていたと思う。 「まあ、いいじゃねえか」 「…なにがですか……全然、良くありません」 「ほら、こっち向けって」 「………いや、です」 「男同士だろ?時間短縮の為に一緒に風呂に入るなんて日常茶飯事だって」 「…そう、なんですか?」 「ああ」 大変悲しいことに、友達らしい友達が居たのは小学生の頃の話だ。だから今の「男友達のやりとり」なんていう知識は皆無に等しい。 一緒に銭湯に行くのと同等のことだろうか?それが本当に日常茶飯事なのだろうか? ……それは分からないけれど、だけどこれだけは、分かる。 「だけど……、もう既に一線を越えてしまった俺達が一緒に風呂に入るのは、おかしいと思います」 俺達の関係は友達?……いや、それは違う。 だったら先輩後輩?……いや、それも違う。 ただの知り合いで片付けるには、お互いの事を知り過ぎてしまっている。 「やっぱり、変ですよ。こういうのは、もうやめましょう」 「…………」 「俺は後で入りますので、どうぞごゆっくりしてくださ、………ッ、!?」 近くに置いていたタオルで何とか下半身だけを隠して、そのままユニットバスルームから出て行こうとしたのだが…。 「……聞き分けが無え奴だな。そこは、素直に頷いておけよ」 「………っ、あ…!」 「そうしたら少しは優しくしてやったのによ」 そんなことは許さないとでも言うつもりなのか、物凄い強い力で腕を掴まれてしまった。

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