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九空間目➉

握手会を終えて、エントランスで嬉しそうに騒ぎ立てる人達の間をくぐり抜けて俺は外に出た。 会場の中だけではなく、会場の外にもファンの人達が大勢居る。そのためサインが書かれているであろう神田さんの写真集を年の為鞄の中に入れておいた。 「…………寒い……」 会場の中が暖かくて居心地が良かったからなのか、余計に外の冷たさを感じ取ってしまう。クリスマスを目前にして飾られているイルミネーションも、この気温も相まって、きっと夜になればもっと雰囲気もでて綺麗に見えるのだろう。そんなことを考えながら俺は人ごみの中を歩いていく。 ……歩いて、歩いて、歩いて……そして俺は泣いた。 「…………くそ」 必死に泣かないように感情を殺していたのに、俺の意思に逆らって勝手に涙が零れてきやがった。先程と比べたら大分人が少ない通り道だとしても、此処が外だということには変わりはない。俺は勝手にボロボロと流れてくる涙を乱暴に袖で拭い、大きく息を吐いた。 「……なんの涙だよ……」 嬉し涙なのか、悲し涙なのか。 いや、そんなこと一々考えなくても、答えは自分でとっくに分かっている。 …………俺は悲しいのだ。 「……神田さんのバカ」 久し振りに会えたことや話せたことや握手できたことに嬉しく思うよりも、全くの初対面の人と同じような対応しかされなかっとことに俺はショックを受けたのだ。 本来なら再会できたことすら奇跡なのだから喜ばなくてはいけないのに、俺はとんでもなく欲深い人間だったようだ。……どこか期待をしていた。俺は他の人とは違って少なからず交流があって、それなりにも気に入られていると思っていたから、皆とは違う対応をされるのではないだろうかと。『久しぶりだな』とか『元気にしてたか?』とかコッソリ言われるのではないかと思っていた。それなのに期待していたことは起きず、他の人と同じように営業スマイルを張り付けた対応しかされなかったことに俺はとんでもなく落ち込んでいる。 もしかして、俺のこと嫌いだったのだろうか。もう会いたくないと思っていたのだろうか。あの時のことはただの消したい過去でしかないのだろうか。……そもそも彼は、俺のことを覚えていたのだろうか。 そんなことことばかりが頭の中を過ってしまう。 「ぐす、っ、ふぅ」 俺は高望みし過ぎてしまっていたようだ。 勇気を出して会いに行ったというのに、やはりただの空回りで終わってしまった。 「……ふっ、ぐすっ」 こんな苦しい思いをするくらいなら、神田さんに抱いている感情も全て投げ捨ててしまった方が楽なのかもしれない。そう思った俺は一瞬写真集の入った鞄ごとゴミ箱に捨ててしまおうとしたけれど、……やはりそんな勇気すらもでずに、涙をボロボロと零しながらトボトボと帰路に着いたのだった……

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