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九空間目⑭
たとえ留守番電話サービスに繋がったとしてもそれはそれでいいのだ。そうだとしても、今は神田さんが俺に電話番号を教えてくれたという事実だけで十分過ぎるほど嬉しいのだ。……だって神田さんも俺に会いたかったって、もっと交流を深めたかったってことだろ?こんなにも嬉しいことはない。
電話の呼び出し音の速度以上に、緊張で激しく高鳴る俺の心臓。口の渇きを癒すように溜まってもいない唾を飲み込んだ瞬間、ガチャッと音を立てて電話が相手側に通じた。
『…………はい』
見知らぬ番号に不信感を抱いているのか、不機嫌さを隠しもせずに電話に出る声の主は紛れもなく神田さんだろう。電話越しの声のためいつもとは少し違って聞こえるが、聞き慣れたこの声は間違いはないと思う。不機嫌そうで、しかもまだたった一言しか発していないが、それでも俺は神田さんと電話が繋がっているという事実に感極まってしまい言葉に詰まってしまう。
「…………、あ……」
後先考えずに、話すべきことを頭の中で纏めるよりも先に電話を掛けたせいもあるが、それ以上に今声を出せばまともな言葉にはならずに嗚咽混じりの泣き声しか出せないと思った俺は、何も喋ることができずただスマホを強く握り締めた。
「……ふ、っ」
『…………、有希か?』
そうすれば漏れてしまった泣き声で判断したのか、それとも何かしらの勘が働いたのか、神田さんは少しの間を開けた後、電話を掛けた相手を見事に当てて俺の名前を呼んでくれた。
……既に泣いているというのに、それだけで俺の涙腺は更に崩壊した。まともに返事ができない状態のため、無駄だと分かっていても、それを肯定するように俺はスマホを握ったまま何度も何度も頷く。
『……有希だよな』
「……ぐすっ、ふぅっ、ひっく」
『なに泣いてるんだよ』
「か、んだ、さ……っ」
『泣きたいのは俺の方だっていうのに。……ったく、遅えんだよ。バーカ』
「……ふ、えっ、ッ、ふぅ」
『掛かって来ないかと思ってた』
俺の精神事情や葛藤を知らない神田さんもまた、俺と同様に不安だったようだ。必死に隠そうとしていたが、その声が少しだけ震えたことに俺は気付いてしまった。……そしてそれに気付いてしまった俺は、つられるように更に激しく泣く。
『掛かって来ないなら、“そういう意思”だと汲んでこのままお前を見逃してやろうと思っていたけれど、……もう無理だからな』
「……ひ、っく?」
『もう二度と絶対に手放してやらねえ』
神田さんの言っていることが分かるようで分からない。
俺は大泣きしながら鼻を啜った。…………期待をしてしまっても、いいのだろうか?
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