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番外編 嫉妬1
神田さんと正式にお付き合いをし始めて三ヶ月が経とうとしていた時……、
「……お前に会いたいと言っている奴が居るんだが」
「…………、へ?」
―――神妙な面持ちをした彼に、そんなことをふと言われたのだ。
「俺に会いたい人、ですか?」
「――ああ」
真剣な表情をしてそんなことを言われたものだから、俺の脳裏には“神田さんの両親”が思い浮かんで少しだけ緊張をしてしまう。……きっと俺のような子供で、しかも男で、容姿も最悪なヤツが『恋人』だと知ったら神田さんの両親はショックで卒倒してしまうだろう。だってこんなにもご立派な息子が俺のような相手を恋人として連れて来たら、そりゃあもうショックなんて言葉では言い表せないだろう。
……だけど俺だって軽い気持ちで神田さんと付き合っているわけではない。世間やお互いの両親に反対をされるのを覚悟してお付き合いさせてもらっているんだ。神田さんがそう言うのなら非難を覚悟の上、勇気を出して挨拶をしに行こう。
「分かりました。神田さんのご両親に挨拶をさせていただきます」
「いや、俺の両親じゃねえけど」
「……えっ!?」
――と思っていたのだが、どうやらそれは俺の勘違いなだけだったようで、俺に会いたいと言ってくれたのは神田さんの両親ではなかったようだ。……どこか安心したような、だけども少し残念でショックなような複雑な気持ちが入り混じる。
「(……そりゃあ、俺なんかと付き合っているなんて、神田さんもわざわざ両親に伝えないよな)」
先程の意気込みはどこかへ消え失せてしまって落胆していると、俺の気持ちに気付いたようで、神田さんは俺の身体を優しく抱き締めて頭をポンポンと撫でてくれた。
「俺の両親には今度改めて説明しておく」
「…………神田さん」
「可愛いもの好きだから、きっと有希のことも喜んで受け入れてくれる」
「……そ、そうですかね?」
「ああ、当たり前だ。お前は世界一可愛いからな」
「…………っ、やっぱり神田さんは目が悪いです」
俺のような奴を世界一可愛いと言うなんて、相当目も頭も悪い。
……だけど、冗談や嘘で言っているわけではなく本心で言ってもらえていることはヒシヒシと伝わってくる。俺が可愛いだなんて百パーセント有り得ないはずなのに、好きな人にそう言ってもらえるのはやっぱり嬉しいものだ。
「紛らわしい言い方してしまって悪かった」
「いえ、勝手に勘違いをしたのは俺ですから。ですが、それだと俺に会いたいと言ってくれたのは誰なんですか?」
「…………あー。分かりやすくいうと、悪女だな」
「悪女、ですか?」
「ああ」
……神田さんからそんな風に呼ばれる相手とは、いったいどんな人なんだろう。余計に正体が気になってしまって仕方がない。
その人に少し会いたくなって、俺は戸惑いつつも了承をしたのだった。
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