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番外編 嫉妬2

『俺とそいつしか居ないから、そんなに身構える必要はない』と言ってもらえたものの、流石に芸能事務所に連れて来られて身構えない一般人なんて居ないと思う。確かに神田さんのお蔭で少し耐性はあるものの、俺からしてみれば此処は異世界と大して変わりないのだ。 ――――しかも。俺に会いたいと言って出迎えてくれた人はなんと……、 「初めまして、明石海未と言います」 「……は!?は、はははははは初めまして……!!!」 壮絶な色気を纏った、“あの”明石海未さん――いや、明石海未様だったのだ。 俺は心臓が飛び出てしまいそうなほどドキドキとしながら挨拶を返す。 「ふふっ。聞いていた通り可愛い人なのね」 「……そ、そそそそそそんなこと……っ」 「有希、落ち着け」 緊張と興奮のあまりどもりまくる俺の背中をポンポンと叩いてあやしてくれる神田さん。……だけど、この状況で落ち着いていられるはずないのだ。彼女のオーラと色気に圧倒されながら、俺はなるべく彼女に対して汚い息を吹きかけないように気を付けながら息を吸い続けていく。――でも、そうすれば。彼女の柔らかく甘い匂いがより鮮明に感じ取れてしまい余計に落ち着くことができない。 例えるならば神田さんの女性版といえるほどの超絶人気女優さんに、『可愛い』と言われるなんて畏れ多くてもうそれだけで死にそうだ。綺麗な彼女を余計に魅力的に思えさせる泣きボクロをジッと見つめながら、俺は脳内では処理しきれない今の状況に噎せそうになる。 「久しぶりにこの世界に帰ってきたと思えば、この男の雰囲気と性格が随分と変わったものだから、絶対になにかあると思ってしつこく聞き出してみたのよね。……そうすれば、君と出会うことができた。本当に会えて嬉しいわ」 「おい、あまり有希に近付くな」 「なによ。なにか文句あるっていうわけ?」 「怖がってるだろ。それにお前のせいで純粋な有希が汚れる」 「あんたと一緒に居る時点でもう汚れてしまってるでしょ」 「有希に会わせてあげただけ感謝してろ」 なにやら言い合いが始まってしまったようだけれど、彼らの会話の内容に集中することなどできない。素で軽口を言い合えるほど仲が良いようで見ていてもとても二人は様になる。美男美女な二人は、もう誰が文句のつけようがないほどお似合いなのだ。 「(…………はぁっ、眼福……!)」 ……本来ならばこんなところを見せつけられて不安になったり、嫉妬をする場面なんだろうけどそんな気すら起きやしない。だってもうあまりにも絵になるからだ。むしろこんな魅力的な人達を間近に見れたことに感謝するしかない。

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