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パロディ 医者×患者
学校の階段を二段飛びや三段跳びで下りたことは誰しも一度くらいはあるだろう。友達とどれほどまでの段差を纏めて飛び下りれるかなんて今思えば危険極まりないことで競い合った人も少なからず居るはずだ。小学生の頃の俺はそれなりに友人も居たのでその経験もある。その経験が無い人でも、急いでいる時なんかには活用する人が今でも居ると思う。
現に今日の俺もそうだった。弟に乱暴かつ強引に腕を引かれ、やむを得なく階段を纏めて二段下りをしていた。
…………そのせいで悲劇が起こるとは知らずに……。
「それで?最後の段に着地したと同時に脚の腱が切れた、と」
「……は、はい」
目の前に居る超絶イケメン先生にこの恥ずかしい失態を事細かに話さなきゃいけない事実と、熱を持ち始めた脚の痛みに泣きそうだ。現に今涙目になりつつある。
―――そう。結論から言うに俺は怪我をした。たった二段下りをしただけなのに。
最後の階段を二段下りし、地面に付いたと同時に前のめりに倒れ込んだあの時の俺を見る弟の目が今でも忘れらない。「何してんだこいつ?」と言わんばかりの冷めた目で俺を見下ろしていた。いや、だってしょうがないじゃん。ブチッと明らかに何処かが切れた音と、じんわりと血が広がる嫌な感触と痛みで立てなかったんだから。
でも「…痛いぃ」と若干泣きながら助けを懇願する俺に、弟のその目が驚きと焦りに変わったのが分かった。見捨てられると思ったけれど、弟は意外にも体重の重い俺を抱き上げて、保健室まで運んでくれたのだ。……あいつにもまだ善の心が残っていてくれた事にちょっぴり感動した俺だった。
「そこの寝台に寝てもらえますか?」
「……はいっ」
「あ、自分で歩かなくていい。ほら手を貸して」
「え、っ」
言われるまま反射的に手を伸ばせば、その腕を優しく引っ張られて先生の肩に回すように促された。どうやら肩を貸してくれるようだ。俺は人の温かい体温に若干戸惑いながらも「あ、ありがとうございます」と礼を述べる。
こんなイケメンで高身長で病院の先生となれば絶対女の人は放っておかないだろう。しかも物凄く良い匂いする上に、すっごく優しいのだから。これは俺が女だったら一も二もなくこの先生に惚れていただろう。そんなことを考えながら、先生のお力を借りて怪我をしていない方の脚だけを使って寝台まで歩いた。
「俯せで寝てくれるかな」
「は、はい」
「触診するからね。痛かったら遠慮なく言ってください」
「……はーい」
もうすでに痛いのにこれ以上痛い思いをしなければいけないのか。でも触診しないと何も分からないだろうから仕方のないことだよな。そして先生は俺の制服のズボンを少し捲し上げ患部に触れてくる。
「っ、!」
ああ、だけどやっぱり物凄く痛い。俺の身体は大袈裟な程にビクっと跳ね上がった。暴力で普通の人よりは痛みに慣れているとはいえ、これはもう別物だ。
しかし男児たるものすぐに弱みを吐けるものか。俺は寝台の綺麗なシーツをギュッと強く握り締めてなるべく声を漏らさぬように痛みに耐えることにした。
「……、」
しかしその間にも先生の触診は続く。履いていた靴下をゆっくり脱がされ、本格的に触られれば痛みによって、額にじんわりと脂汗が浮き出てきた。きっと赤く腫れ上がっているのだろう。それなのにイケメン先生は何を思ったのかそこを指の腹で強く押してきたのだ。
「っ、あ…ッ、」
「痛い?」
「……ひっ、あ……いえ、痛くないで、…すっ、ぅ!?」
「これでも痛くねえのか?」
痛い、痛い、痛いっつーの!
というか今の荒々しい口調なにそれ!?さっきまでの優しい口調はどこにいった?もしかしてそれが本性?それとも俺の痛みによる幻聴?お願いだから後者であってくれ。俺は痛みで訳も分からず、ただ我武者羅に首を縦に振った。
「へー。これでもか?」
「い、痛いぃ…!いた…っ、痛いですっ」
「ははっ」
何笑ってるんだこの医者は……っ。本当に医者なのか?ただのサディストクソ野郎じゃないか!さっきまでのは演技なのか、猫被りなのか。
俺の弟がそうのように、やっぱりイケメンにいいヤツなんて居ないんだ。世のイケメン皆滅びやがれ馬鹿野郎……!
「せんせ……っ、やめて」
「先生はただ触診をしてるだけだぞ?」
「ひ、ッ……ぁぅ」
「くくっ、何だそのエロい声は」
どこの医者が怪我もしていない尻に触ってくるかよ。それに変な声が出てしまうのはあんたが変な触り方をしてくるからだろっ。そんな怒りと不満を口に出して言えればいいけれど、口答えをしたら最後、余計に酷いことをされそうで言うに言えない。
こうなったら最終手段だ。いっそ、逃げてしまおう。
此処から扉までは意外と近い。例え片足使えなくても頑張れば逃げることが出来るだろう。そうすればきっと誰かが助けてくれる。この医者も誰かが成敗してくれるはずだ。
そう考えた俺は、すぐに行動を移した。
上半身を腕だけで持ち上げ、怪我をしていない右足だけを床に付ける。後は片足で少し移動をすればいいはず……、
「ばーか」
―――――だが……。
俺がドアノブを握る少し前に後ろから抱き抱えるように拘束されてしまい、俺はもうどうにも出来なくなってしまった。
「そんな足でどうやって俺から逃げるんだよ」
「……ひっ!?」
耳元で聞こえてくる先生の笑いが混じった低い声に絶望を感じ取りながら、俺は待合室に居るであろう弟に心の中で助けを求めたのだった……
END
***
しかし神田先生はこの後は酷いことはせずに、適切な処置をしてくれると思います(笑)多分。でも、このままヤンデレルートでも弟と取り合いでも美味しいかと(笑)。
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