2 / 47

OpeningShow

 鏡の中の自分を見てうんざりする。身長はギリギリ160を超えた。髪はくせっけで水で濡らしただけじゃどうにもならない。顔に至っては……普通。多分、いや普通だと思いたい。せめて頭くらい良けりゃいいんだけど、残念ながら下から数えた方がうんと早い。  そんな平凡ちび野郎でも、恋はする。  残念ながら好きだと気づいた瞬間に失恋が確定した。それは俺が卑屈だからじゃない。相手は親友で、俺と同じ男。成績だっていいし、スポーツだって万能。それからとにかく顔がいい、なんで俺と親友なのかもわかんねえくらいの、完璧なやつだからだ。  不思議だったのはあいつに彼女がいないことだ。心底性格が悪いのならわかるけれど、完璧な男は性格までも花丸百点満点。モテるって言葉は円加の為にあると言ってもいいくらいなのに。俺の知る限りでは一度も彼女はいない。  毎週のように呼び出されて告白されているくせに、贅沢な奴だ。最初は面白がっていろいろ聞き出したりしたけれど、円加を好きだと自覚してからはやめた。俺はまず告白するってところにも立てないのに、悪趣味にもほどがあると気が付いたからだ。それに、いくら円加が振るとわかっていても、胸が苦しかった。わざわざ待っててやる義理もないし、なんなら告白されることを知りたくない。一度戻ってくるのを待たずに家に帰ったらそれはそれは拗ねられた。汗をかいた円加は家にも帰らず俺の家に走ってきたらしい。さすがに玄関先で追い返す訳にもいかず部屋へ上げれば、何で帰ったんだと唇を尖らせて俺へと詰め寄ってきた。突然整った顔がぎゅんと近づいて俺の心臓はバクバクと誤作動を起こしかけたが、こんなのは今に始まったことじゃないと深呼吸をしてなんとか乗り切る。  まあ落ち着け、飲み物出すからと諭せば、仕方なさそうにクッションの上に腰を下ろした。キッチンからペットボトル二本とスナック菓子を持って部屋に戻ると、俺の大事なでかいイルカのぬいぐるみをぎゅうぎゅうと抱き潰してまだ拗ねていた。 「なんで置いてったんだよ、いつも待っててくれてたじゃん」 「あー……」  そこで見たくないし聞きたくないから、なんて言えるはずがない。そして咄嗟に嘘つくことも出来ない俺は適当に誤魔化すことも出来ず、あーだかうーだか言葉にならない唸りで返した。  本当は俺の家に直行してきたってことはきちんと断ったってことで安心しているくせに情けない。でも今日の子はとびきり可愛いと小耳にはさんでいた。だから帰ったってのもある。さすがに学校のマドンナから告白されりゃ円加だってオッケーするかもしれない。  そうしたら俺は教室で一人で待ちぼうけ食らったあげく、円加に彼女が出来たのをひきつった顔で祝って寂しく一人で帰らなくちゃならない。  さすがにそれはしんどいにも程がある。 「でも、今日の子すっごい可愛いって隣の席の奴が言ってたぞ。それなのに断ったのか。  お前……彼女とか、興味ないのか? 可愛い子だっていんだろ?」 「俺には葉がいるし。彼女には興味ないね」 「ふうん…もったいねぇの」 「興味ないのにもったいないもクソもないよ」  それからは拗ねた円加がワガママを言ってなぜか膝枕をしてやることになった。俺の膝なんて硬いだけなのに、何が嬉しいんだろう。円加がゲームに夢中になっている隙を見計らって顔をちらりと見下ろす。どの角度も整っていてずるい。俺と違ってそばかすなんてないきれいな肌、くっきりぱっちりの二重まぶた、すうっと高い鼻。俺はにやけちまう顔をなんとか誤魔化しながら外が暗くなるまで二人でだらだらとゲームをした。  膝枕だけじゃない。  親友というだけあって、物理的にも距離が近くなるのは自然なことだった。それにいちいち反応していては俺の身が持たない。腕や背中が触れ合っても何もない顔をしなきゃならない。本当はその度に心臓が大きく跳ねて、ぐっと力を入れないと飛び出してしまいそうだった。

ともだちにシェアしよう!