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OpeningShow
いつだって円加は俺よりもずっと前を見ているし、俺に対して過保護なところがある。それは昔から変わらない。
中学の時からずっとそう。高校受験だって、俺の成績と円加の成績じゃ行ける高校は天と地ほどに差がある。それなのに、円加は何も言わずに俺と同じ高校に決めていた。受験会場にもいなかったし、なんでどうしてと驚く俺に、円加はしれっと言った。
「特待生の学費免除が目的ってのもあるけど、葉と離れるなんて考えられない」
けらけらと笑う円加が本当のことを言っているのかはわからない。学費がなくなれば確かに親は楽かもしれない。でもでも、円加ん家って金持ちだったはずじゃ。
さすがに親友でも家の金銭事情まで口出しは出来ない。一緒にまた三年間同じ学校に行ける喜びを噛み締めるよと返せば、円加はびっくりするほどきれいな顔で笑ったから、俺はその瞬間円加に心臓を奪われた。それまでだってずっと隣にいて、何度もみた円加の顔なのにそのきれいな笑顔に俺は一瞬で恋に落ちたのだった。
高校が決まってからも円加の過保護は変わらなかった。
通学路、制服の購入、部活はどうするのか親よりも知っていてそれはそれは役に……違う違う、助けてもらった。通学路に関しては顔がいいだけあってストーカーや誘拐対策のため、制服は背が高いので二度手間を防ぐため、部活は運動音痴な俺のために下調べをしてくれていたようだった。
小学校低学年の時の円加は本当に可愛らしくて、ズボンを穿いていても女の子に間違えられていた。それから身長が伸び始めると変質者がストーカーに変わる。女の子同士の争いだって何度も見た。キャットファイトって言うやつ。あんなん見たら円加が彼女ってものに興味がなくなるのも仕方のないことなのかもしれない。
小学校とは違って中学から制服になる。背が高いだけでも羨ましいったらないのに、足が長い。俺はいっつも丈を直してもらうってのに、円加は足りない方で困ってる。親同士も仲がいいこともあって制服だって一緒に見に行った。一人で着れるって言ったのに、狭い試着室に円加も入ってきた時は驚いた。助けてもらえなくても脱げるし着られるって何度言っても出て行ってくれなくて結局俺が折れて好きにさせてやったのが懐かしい。
自分のために円加が何かをしてくれるのは嬉しいに決まってる。それが例え俺が運動音痴だったりおっちょこちょいだからだとしても。
部活は二人揃ってテニス部に決めた。
円加は小さい時からテニスをやっていたから、テニス部に決めたのは当然の流れだった。俺はテニスなんて知らないし、ラケットなんてバドミントンでしか触ったことがない。
運動音痴の俺が入ったところで足を引っ張るのは目に見えていたから文化部から選ぼうと思っていた。それなのに円加が怖いことを言いやがった。
「まず家庭科部は女の子ばっかり。葉、大丈夫? 女の子たちがケンカしたらすごいこと知ってるでしょ?
美術部は……出るって聞いたよ。コンテストとか文化祭とか近づくと帰り遅いみたいだし。葉、おばけだめだったよね?
それからパソコン部。あそこはオタクばっかりだって。葉もアニメ好きだから仲良くはなれるかもしれないけど、男ばっかりのところで平気? ほそっちょろいから、襲われちゃうかもよ?」
「そ、んな……じゃあ俺どうしよ」
パソコン部への偏見が凄まじい。それに円加は時々過保護過ぎておかしなことを言う。あり得ないとわかっていても、そんなこと聞いたあとで入ろうなんて思えるはずもなく、俺は結局文化部への入部を諦めた。高校でも部活への入部は絶対だ。特別な理由があれば免除もあるみたいだけど、そんな特別な理由なんて何もない。焦る俺に円加はずっと一緒に悩んでくれた。
結局入部届を出すギリギリまで悩んで、円加が「俺のマネージャーになったら?」と言ってくれたのでそれに甘えることにした。部員の一人を個人的にマネージャーにするなんて許さるのかという心配は無駄だったらしい。円加の成績だったら誰も文句は言わなかった。
勉強と部活。俺はマネージャーだけど、熱心な顧問の指導もあって休みはほとんどなし。練習と試合に明け暮れる毎日だ。一年なんてあっという間に過ぎて、二年になると円加と試合をするために他校がやってくるようになった。三年になったところで円加は当然のように部長になって、俺はただのマネージャーなのに、何でも知っている便利屋としてかなり部内で重宝されるようになっていた。
円加は相変わらず過保護で、俺に甘い。彼女を作ることもしないから、俺とばかりいる。
円加の隣にいられるなら、親友でよかった。そう思っていたのに……。
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