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FLYNG TRAPEZE
無事に大学も決まって、涙涙の卒業式も終わった。
高校の卒業式は早い。桜が咲く前に俺たちはあの学び舎に手を振って、充実した三年間に別れを告げた。
大学までの準備期間とは言え、短く切羽詰まった受験からやっと解放された。起きる時間も寝る時間も自由。
デートだって、し放題だった。
『明日は十時に駅前で待ち合わせな』
毎日のように逢瀬を繰り返す相手は付き合って二年目の央樹だ。待ち合わせって、行先に近い方の家に遠い方が迎えに行くのが定番なのに、なんで駅前。駅に行くなら俺が央樹を迎えに行って一緒に行けばいいのに……。
なんとなく、いやな予感がしなくもない。でもまあ、会えるならいい。
同じ県内とは言え大学は別々だから、一緒に過ごせる時間は少しでも二人でいたかった。
十時五分前に駅前に着いた。周りを見渡しても央樹らしき人物は見当たらない。ポケットからスマホを取り出しても、着信もメッセージも届いてなかった。平日とは言え駅前だ。サラリーマンや自由な大学生、俺たちと同じ卒業したばかりの高校生がたくさん歩いている。
央樹が遅刻なんて珍しい。腕時計に視線を落とし、そう呟くと視界に俺のスニーカー以外のものが入り込んだ。
「央樹…?! って、えええ……お前何やってんだよ」
「え、もうバレたの? つまんねぇ……逆ナンしてドキドキさせてからネタばらししようと思ったのに」
少しだけ遅刻して現れたのは央樹……のはずだ。いつものダッフルコートの下に来ているものが問題だ。それに頭にかぶっているカツラも大きな荷物も。
「お前なんて格好してんの……ってか、何でんなもん持ってんだよ」
「案外似合ってるだろ? これなら文ちゃんと堂々と手繋いで歩けるんだぜ、俺天才じゃね?」
どこからツッコんでいいのかわからないままとりあえず思ったことを言ったのに、それには一切触れてくれない。俺は盛大な溜息を吐いた。央樹の手が俺の手をそっと握る。天才だとドヤ顔してるくせに、緊張してるのか汗ばんだ手に仕方ないと許してしまう自分がいる。
「今更だし、まあでっかい女だな程度には誤魔化せるだろ。とりあえず行くぞ……行先は?」
「まず普通にデートしよう。ふらふらショッピングして、適当になんか食べる」
ん、わかった。
正直言うと、央樹の女装が思ったより似合ってるのが照れくさくて、少しばかりぶっきらぼうに返事をして手を引いた。
少しだけ電車に揺られて辿りついたのは、駅と直結した大きなショッピングモールだった。
電車の中で着替えはどうしたんだと聞けば、大きなカバンに普段の服が入ってるらしくわざわざ駅のトイレで着替えたとのことだった。
ご苦労なこった……相変わらず変なところに全力を出して楽しませてくれる。受験も主将の肩書もなくなった今、恋人と過ごす時間は甘くいろんな意味で刺激的だ。
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