11 / 11

誇大広告(番外編)

「……これは一体、なんの集まりだ?」  不機嫌そうにそう唸ったのは、恐ろしい本性をその端整な姿の奥に綺麗に畳み込んでいる男――ディズだ。  そのありさまを見ながら密かに笑ったのは線の細い少年である。彼らの目前には庶民が住まう区画の中では一番広大な広場があり、少年と同じように丈の長いローブのようなものを纏う老若男女や、それを囲うように見学する人々で満ち溢れていた。 「なんのって、朝も説明したけどさ。召喚士ギルドに所属する召喚士の腕比べみたいなやつだよ。この場で召喚した召喚獣のランクで、オレたちのランクが上下するってわけ」  強い風が吹き、目深にかぶっていた少年のフードが外れた。そこから現れたのは、男が本来住まう、異形の世界でも殊の外めずらしい紅い瞳だ。慌てたようにフードを被りなおした少年を見咎めたのは、三十代後半といった人間の男だった。 「おい、ユーグ! 来ていたんだったら本部にも寄ればいいだろう? お前、今年もくじ運が悪かったな。相手は上位召喚士のアレンだぞ」  アレン、のところで男の視線が動き、その先に立っていた青年が気付いたようで笑顔をこちらに向けてくる。上位、とつくだけあって、綺麗な顔立ちの青年の隣には上位召喚獣と人間たちが勝手に格付けしている魔族の一人が立っていた。その顔は、自信たっぷりといったようで、ふてぶてしくユーグを見下ろしているかのようだ。 「……あれで、上位?」 「相手が上位ってだけで召喚失敗することもあるのにさ……今年も安給料で我慢するしかないか」  耳元で密かに呟いたディズにユーグが答えると、傲岸不遜な黒竜は鼻で嘲笑ってみせる。  ――と、一瞬翼が羽ばたくような――そして、ディズを間違えて召喚してしまったあの森で聞いた、硬い鱗が擦れるあの独特の音が聞こえた気がして慌てて顔を上げるが、そこにいるのはいつも通りのディジリアーズだ。 「おい、アレンの召喚獣が一瞬で消えたぞ?!」 「アレン、どうしたんだ!」  急激に沸き起こった騒ぎにユーグが目を向けると、つい今しがた立っていたアレンの魔族は消えていて、青年はひどく恐ろしいものを見たように、ひどく青ざめた顔でユーグの向こうを呆然と見やっていた。 「何があったんだろう? ディズ、分かるか?」 「さあ、我らは気紛れだからな。大方、あれの召喚獣とやらが魔界にでも戻ったのではないか。どうする? 今なら相手の気力がそがれているようだが」 「もういいって。いくらお供の召喚獣がいなくなったって、召喚の時にそいつがまた現れたら勝ち目なんかないし。それより、ディズの探し物はここにはいないんだろう? じゃあ、帰ろう」  仰せのままに、と嘯いた竜は、小さな主の背中をゆったりと追い始めるのだった。 Fin.

ともだちにシェアしよう!