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第10話

「あー、もう本当に助かったよ、ありがとな」  喜ぶように緑色の光が踊る。  オレの身体を散々に甚振った変態鬼畜野郎とは違い、またしてもフェアリーが優しい光で全身の痛みをとってくれた。 「フェアリーちゃんみたいな子がいてくれたらこれからもラクなんだけどなー。オレ、自分の傷の手当はできないからさ」  回復術で自身の傷を治せる術者も当然いるが、ほとんど見様見真似で覚えたオレにそんな器用なことができるはずもない。自分では賛辞のつもりだったのだが緑色の光をまとうフェアリーは悄然としたように飛ぶ位置を下げた。心なしか表情も暗くなっている。 「私が呼び出したのだから、それも当然ユーグの召喚魔にあたる。むしろ、それはもうお前を主と思っているようだが」  突然入ってきた長身の美丈夫にオレはびくりとしてから必死に取り繕う。今後、できる限りこちらの弱いところを見せられない相手だからだ。何せ、オレのことは主だなんだと言いながら呼び捨てにして圧し掛かり、しかも本当なら高位召喚士ですら滅多に召喚することは適わない最高位にあたる召喚獣サマなのだ。魔界の家庭事情とやらで"暁の鳥"探しを手伝うよう強要されているが、それにしたってもっと人選のしがいがこの国にはあるはずなのだが。 「そっかそっか、じゃあフェアリーちゃんにも名前付けたりしてもいいのか? うーん、カシフィとかどうだ?」  我ながら情けなくなるネーミングセンスにも関わらず、緑の妖精は気に入ってくれたのか今度はオレの頭の周囲をくるりと飛んで見せた。そういえばこのカシフィでオレが勝手に名前をつけた召喚獣は4組目になるんだ。普通、自分と相性の合う召喚獣と出会えるのは一生に一度あるかどうかと言われているし、上位の召喚士でも3体以上は連れ歩くのが大変だって聞いたこともあるけど、金がない時には勝手に食料を調達するくらいの甲斐性を備え持っているグリフィスと回復術が得意でご飯のいらないカシフィは思ったよりも負担にならない。ワイバーンのホーマは魔界に戻ったから問題外だし……オレを襲う馬鹿がいなければ、だが。 「そういえばさ、魔界にはディズみたいな竜ってゴロゴロいるのか? みーんなおっきいんだろうな」 「私と同等位の竜は他にはいない。種が違えば私と対を張る力がある者もいるだろうが……それがどうかしたのか」  オレが腰掛けている寝台に、図々しくも隣に座り込んでくる。怪訝そうにこちらを見てくるディズにオレはしかし、今までになく優しい笑みを浮かべていた。 (やっぱりディズより弱い竜っていないんだなー、なんだ、ディズもえらっそーにしていてオレと似たようなもんか。……ってことは、前に王位争いに関わってるって言ってたのもディズの上の人? が絡んでるとかそういうことか!)  プライドは山よりも高そうなディズには口が裂けても言えないことを心の中で呟いて納得する。軽く後ろに流しているディズの前髪をわしゃわしゃと乱してやると、オレは勢いよく立ち上がった。 「よっし、可愛いディズのために頑張るか! ……なに? どうしたの?」  "暁の鳥"探しのためにはまず、情報収集からだ。そう思って意気込むオレの視界に、三者三様の表情でオレを見てくる召喚獣たちが映った。 「いや。ユーグほど分かりやすい人間はいないと思ってな。私のために頑張ってくれるのだろう、マイマスター。楽しみにしているぞ」 「お、おう?」  ニヤ、と人の皮を被った魔物が不審な笑みを浮かべたが、オレにできたのは何とか返事をすることくらいだった。 Fin.

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