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事実は妄想よりも奇なり1
初めに重要なことだから強調するが、暁 陸空 は決してゲイではない。女性経験もないわけではなく、欲望を覚える対象も同性だったことはない。
ただ一つ、誤解を招く要因があるとすれば、陸空はBL漫画や小説を好んで読むところがある。3次元の同性を眺めて、妄想を膨らませることも、もはや趣味と化していた。
しかし、BLオタクだからといって同性愛者だと決めつけるのは早計である。世の中に数多くいるであろう陸空の仲間が、賛同の意を唱えるに違いない。
ところが、友人の夏本大祐にそれを知られた結果、妙な具合に食いつかれた。
「でも、偏見はないということだよな」
何やら期待を込めた眼差しで問い詰められ、壁際に追いやられる。そして壁に手をついて、囲い込むようにされた。
人気がない踊り場とはいえ、いつ誰が通りかかるか分からない場所で、同性の友人に壁ドン攻撃を仕掛けられるとは。それが自分ではない誰かだったらおいしいシチュエーションだろうにと、内心密かに嘆息した。
「確かに大祐の言う通り偏見はないが」
陸空がそう応えると、大祐は瞳を輝かせた。どんなに鈍くても分かる。これは全く望んでいない展開だ。
「じゃあさ、俺がもし陸空を好きだったとしたら……」
「ないな」
「え?」
「悪いが、俺はゲイではない。趣味とそれは別物だ。諦めてくれ」
バッサリと切り捨てると、大祐の両腕から力が抜け、ずるりと垂らされた。壁ドンから解放された陸空が、大祐の前から立ち去ろうとした時、強く腕を掴まれる。
「大祐」
名前を呼ぶと、それだけで友人の肩が震えた。俯いていて表情は見えないが、もしかして泣きそうになっていたりしないだろうか。
自分が優しい性格ではないのは自覚しているが、流石に冷たく対応し過ぎたかと後悔が沸き起こりかけた。
「あの、大祐……」
声をかけながら下から覗き込んでみると、涙はないようだったが、唇を強く噛み、激しく揺れ動く感情の波紋が広がって弾けてしまいそうになっている。
「だい……っ」
再度呼びかけた時に、突然停止していた時間が動き出して、大祐は一瞬、陸空を抱き寄せた。
「何を……」
文句を言おうとする前に、 大祐はすぐに陸空を離して笑いかけてくる。
「ごめん」
やはり涙はないのだが、泣いているようにしか見えない笑い方だ。背中を向けて急ぎ足に立ち去る後ろ姿を、呼び止めることも出来ずに、なんとも言えない気持ちで見送る他なかった。
というような、いかにも悲しい展開が待ち受けていることが予想される出来事があったのだが、そんなことにはならなかった。
それどころか、大祐は変わらず明るく陸空に接して、さらには鬱陶しいぐらいに猛アタックを仕掛けてくるようになるのだ。
そしてあれよあれよと言う間に、陸空は大祐に押し倒されて体をいいようにされ、そのうち心まで奪われるのでした。めでたしめでたし。
(注意 ここで終わりではありません。)
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