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事実は妄想よりも奇なり2
「というのはどうだ?」
陸空は紙に書きなぐった妄想の羅列を読み上げると、大祐に感想を求めた。
「どうだ?って、何だよそれ。俺がお前に偏見うんぬんで迫ったところから全部妄想じゃないか!そしてなんか途中から雑になっている!」
「もっと詳細にあれこれ書いた方が良かったのか。大祐が陸空の上に乗っかり……」
「やめろ!というか、なぜ俺たちという設定なんだ!」
「いや、待てよ。お前の上に俺が乗っかるという構図も……」
「話を聞け!」
大祐が悲鳴じみた声を張り上げたところで、ようやく陸空は妄想を中断してやることにした。
もう少し大祐がノリがいいと良かったと思うが、これまでこうして妄想に付き合ってくれた友人は貴重である。それは分かっているのだが、どうしてもからかって遊びたくなるのだ。
もちろん、それだけではないのだが。
「やっぱりこれをコミケに出すのは駄目か」
「駄目に決まっているだろう。どうしてこの頃は、俺のことばかりネタにするんだ」
盛大に溜め息をつかれたところで、やめられないものはやめられない。それを何故と聞かれても、正直、陸空自身も答えられないところがあった。
妄想が好きなのは元からだが、この友人を前にするといつも以上に止まらなくなるのだ。例えるなら、まるで大祐から電波で何かを受信しているような。
「大祐」
「何だ」
「俺に何か発信しているだろう」
「は?」
意味が分からないという顔で見返された。分かっている。我ながら脈絡がなさすぎた。だから急に真顔になるな。
「大祐」
「何だ」
「接近しているぞ」
「俺じゃなくて、陸空が発信しているんじゃないか。その妄想で何を訴えているんだ」
「……いや、分からない。近いぞ」
顔を近付けてきた大祐から離れようと後退していると、じりじりと壁際に追いやられる。そして、壁に手をついて、両腕で囲い込むようにされた。覚えのあるシチュエーションだ。
「大祐、怖いぞ」
ぞくりと背筋が戦いて、妄想が膨らんでくるのを止められない。この後の展開を何通りでもイメージして、自分は何を期待しているのか分からなくなった。どうしてか、どれもこれも大祐とどうにかなる結末ばかりが浮かんでくる。
そして、大祐が顔を近付けてきた時だった。
「……ぷっ」
不意に、大祐が吹き出した。そして、腹を抱えて笑い転げる。
「大祐?」
「すげえ百面相。どうだ、嬉しいだろう。いつも妄想されているお返しだ」
どうやら一杯食わされたらしい。それを悟った途端、言い様のない怒りのようなものが込み上げる。そこに、確かな悲しみも混じっていた。こんなタイミングで知りたくもない感情だ。
「分かった」
「え?何が」
「お前がそんなに嫌がっていることを知れて良かった。次からは、他のやつを使う」
「え?おい、待てよ」
追いかけてくる大祐の気配を無視して、自慢の逃げ足で走り去る。やけに胸が苦しい。廊下の角を曲がったところで、前にいた誰かにぶつかりそうになった。
そのぶつかった相手がイケメンで、恋に落ちました的なありがちなシチュエーションを、条件反射で妄想してしまうが、それを喜ぶ余裕もない。
ところが顔を上げた先に待っていたのは、想像を超えた光景だった。
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