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事実は妄想よりも奇なり3

「陸空、はええよ。なんで運動部の俺より足早いんだよ……って、何をしているんだお前」 背後から駆け寄ってきた大祐が、陸空の肩を叩く。陸空は大祐を振り返り、ごくりと生唾を飲み込んだ。そしてすぐさま、目の前の存在に視線を戻す。 「何を見て……!?」 大祐も陸空の視線の先にあるものを見た気配がした。そして、ひゅっと息を呑む音がする。 陸空は大祐とともに、しばしその有り様に釘付けになった。 二人が目にしたものとは、廊下の中心で口付けを交わしている美男子二人組だ。確か二人とも、女子に騒がれているモテ男で、坂田(ばんだ)不知火(しらぬい)という名前だったはずだ。 陸空は大祐以外には、よくこの二人も題材にして妄想を繰り広げてきた。それは彼らが、他の生徒と比べて遥かに、じゃれあう回数が多いからだ。 しかしその先の行為は、あくまでも陸空の妄想でしかなかったのだが。 「ん……っふ……」 生々しい息づかいまで聞こえてくる。これは現実かと疑った陸空は、大祐の手に触れてつねった。 「っいて!……陸空、何するんだ」 「しっ!現実のようだな」 「自分の手で確かめろよ」 「しっ!」 大祐の口を手で塞ぎ、声を潜めるように促した。どうやら坂田と不知火は、まだこちらの様子に気付いていないようだが、念には念を。 ひとまず大祐を物陰に引っ張り込むと、携帯で盗撮したくて仕方ないという欲求が爆発しかけた。 「おい、陸空。携帯で何をするつもりなんだ」 「決まっているだろう。邪魔するなよ」 いざ隠し撮りという段階で、横から伸びてきた手に携帯を奪い取られた。無言で睨むと、より強く睨み返される。 「言っておくが、犯罪だというのは百も承知だ。そういう真っ当な意見はお呼びではないぞ」 「そういうことじゃない」 「では、何が言いたいんだ」 大祐を見上げると、何故だか気まずそうに視線を逸らした。それを追いかけるようにして顔を近付けると、さっと手で顔を隠される。訳が分からない。 「分からないけど、むかつくんだよ」 「何が」 「陸空が他の男の写メを撮ったり、妄想したりすると思うと」 「そんなの、今に始まったことじゃないだろう」 「そうだよ。でも何か嫌なんだよ。これは何だよ。陸空、教えてくれ」 「知るか」 冷たく突き放して見せながらも、 突然悶え始めた大祐の心境を妄想を膨らませて当てはめかけ、慌てて抑え込む。そして、さもラブシーンを繰り広げている二人に見いっているふりをした。 「陸空」 拗ねたような声で呼ばないでくれ。 「俺を見ろよ」 「断る」 「何でだよ」 邪魔しないでくれ。ラブシーンに自分と大祐を重ねて見ているのだから。自分たちは、冗談でもあんなやり取りは出来ないのだから。 今隣にいて、陸空に必死に呼びかけている大祐は、恐らく自分の妄想が生んだ幻だろう。 大祐は陸空に妄想でもそういう目で見られることを嫌がっていた。大祐は陸空を追いかけてきてなどいない。 どこからどこまでが現実で、自分の願望か分からない。 そんなことを延々と考えながら、夢の中に浸っていると、夢の中の大祐が陸空を引き寄せて、その腕の中に閉じ込めた。 やけにリアルな感触の妄想だなとぼんやりと思い、大祐の匂いを嗅いだ。お日様の匂いがした。 「陸空、もう一度聞く。お前はどうして俺とのことばかり妄想するんだ」 「……それは」 「正直に言うと、俺はお前に願望をぶつけられている気分だった。告白みたいな」 言われた瞬間、かっと顔に熱が集中した。そうなのだろうか。大祐をからかっていたのではなく、自分の欲求から滲み出た妄想だったのだろうか。 今度は陸空が恥ずかしさで身悶えしたい気分になったが、捉えられていて動けない。 「お願いがあるんだ。妄想するなら、俺のことだけにしてほしい」 これはどういう展開だと結論に至る前に、大祐は陸空の妄想の中をなぞるような真実を語った。 「俺がお前を本当に好きになったとしたら、どうする?」 何度も繰り返し脳内でイメージした、大祐からの告白シーン。どうして大祐ばかりを妄想してしまうのかが、分かりかけていた。

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