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お近づきの印に2

 不知火と坂田は陸空からすれば憧れの二人(?)のようなものだが、実際に接点が生まれたのは初めてのことだった。  しかし、あれも事故のようなもので、それ以来二度とお近づきになれないというのが現実というもの。という予想が大きく裏切られたのは、その翌日のことだった。  いつものように陸空の妄想に大祐を巻き込んでいると、何やら廊下が一段とざわつき出した。何事かと大祐と顔を見合わせると、クラスメイトの間を掻き分けるようにして、爽やかな笑顔を浮かべながら不知火が現れる。  その後ろには当然ながら図体がでかい坂田が……いない。二人は常に一緒にいる印象だったために、珍しいこともあるものだと眺めていたら、不知火は何故か真っ直ぐこちらへ向かってきた。  笑顔のままなのだが、かえってうすら寒さを感じずにはいられないのは何故だろう。  あれだけ憧れの君(?)だったはずなのだが、大祐を盾にして隠れてみたくなった。 「おい、なんで俺の後ろに隠れるんだよ」 「いいからいいから」 「よくねえよ」 「ちょっと、何で今度は大祐が隠れるんだ」 「いいからいいから」 「よくない」  お互いがお互いの後ろに隠れようとする、という訳が分からない攻防を繰り広げていたところで、誰かが盛大に吹き出した。  ぴたりと動きを止めて視線を向けると、不知火が肩を震わせて笑っている。先ほどのような、訳もなく恐怖を誘う笑顔ではなく、本当に可笑しくて笑っている顔だ。  それにどこか安堵した気持ちで、大祐の横に並ぶと、不知火はようやく笑いを止めた。  そして、「何のご用で」と問いかけるまでもなく、不知火は自ら用件を口にした。 「宣言通り、追っかけをしに来ました」 「ん?」 「でも、ご覧の通り俺って悪目立ちするみたいなんだよね。こっそり追っかけをするのは向いてないみたい。だからやっぱり、堂々と会いに来てみました」 「んん?」 今一つ意図を掴めずにいたところ、救いを求めるように大祐に目を向けると、その目付きにぎょっとした。親の敵でも見るように、ぎらぎらとした眼光で不知火を睨み付けている。 「心配しなくても、捕って食べたりしないよ。そういう意味で興味はないし。それであいつを動揺させられるなら、やってみたいけどね」 「坂田とあんた、付き合っているんですか」 その問いの答えは、陸空も知りたいと思っていたのだが、予想に反して、不知火はまたもや思いきり吹き出した。 そして無理矢理、表情を改めて平静を取り繕うと、大祐と陸空の方を順番に見ながら、反対に問い返す。 「君たちから見たら、どう見える?」 「どうって……」 「いつも一緒にいて、傍にいるのが当たり前。性的な対象としても互いに見ている。もっと露骨に言うと、体の相性もいい。そんな俺たちはどう見える?」 不知火の言葉を聞いていると、半分くらいは自分達にも当てはまるように思えたのだが、わざとその表現を避けているせいか、かえって違いが浮き彫りになっている。 「まさか、セフレ……」 陸空と同じ答えにたどり着いたのか、大祐がそう呟く。それを聞いて、不知火は曖昧に濁した。 「そうとも言うのかな?まあ、ラブラブの君たちから見たら、俺たちの関係は理解に苦しむ複雑怪奇だろうね」 「ラッ……ラブラブ?」 「そう。あれ、何その初々しい反応。まだラブラブ未満?どこからどう見ても、ラブラブでしょう。そんな二人に、俺から折り入って頼みがあるんだけど」 二人の理解が及ばないことも全く気に止めず、どんどん一人で話を進める不知火。蠱惑的に笑う彼の唇から飛び出すその頼み事とは。    どんな無茶ぶりが飛び出すのかと身構えていたのだが、不知火の「頼み事」は、一枚のDVDを渡され、それを必ず二人で見ることだった。 ついでに、渡される時に告げられた一言は、「お近づきの印に」だったのだが、頼み事とお近づきの印とやらがどう関連するのか予測できない。 一体どんな内容かと怖さ半々、楽しみ半々で、早速その日の放課後、大祐の家にお邪魔して見てみたところ。 「こ、これは……む、無修正……」 「陸空、鼻血!鼻血出てるぞ」 なんと不知火と坂田の営みを、いわゆる「はめ撮り」というやつで撮られた映像だった。どちらが言い出してこんなことをしたか分からないが、いい趣味をしている。 言外に「これを見たかったんでしょ。勉強しなよ」という不知火の声が聞こえてきそうだった。 ちなみに、この後、大祐と陸空が勉強の成果を実践したかどうかはご想像にお任せ。

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