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第2話

 薄暗い木目の天井が薄ぼやけた視界に映る。三条楓はのろのろと上体を起こした。ポタッと涙が頬を伝って布団の上に落ちる。  最近、この夢をよく見る。ビルがいくつもそびえ立ち、車が道を行き交う現代において、あの夢のような甲冑の音も地鳴りのような足音も聞くことなどない。どこかで見た時代劇が夢となって出てきているのだろうかと思うが、最後の青白い光はいったい何なのだろうか。それに起きた時に必ず襲い掛かる苦しいほどの悲しみも。  何が悲しいのかもわからないのに、あの夢を見ると必ず涙を流している自分がいる。しばらく物思いにふけるが、明るくなってきた窓の外に楓は思考を切り替えて立ち上がった。もう仕度をして仕事に行かなければならない。  朝食を食べながら今日の天気を見るためにテレビをつける。朝の報道番組では三大公の内の一人である駿河大公の番(つがい)が適齢期に達したために婚礼の儀が行われるというニュースが流れていた。  この国には三人の大公がいる。この三人が実質国のトップであり、国を動かしている。大公は世襲制であり、その婚礼は慎重を極めた。  この世界は男女という二つの性に加えて、アルファ・ベータ・オメガという第二の性が存在する。文武のどちらにも優れた人類の王であるアルファ、人口の大半を占めるごく一般的な知能と運動能力を持つベータ、か弱く月に一度の発情期を持ち男女の区別なく妊娠可能なオメガ。  ベータが大半を占めるために、アルファとオメガはごく少数だ。国を栄えさせるためには優秀なアルファが必要で、アルファはオメガからしか生まれることはない。  当然三大公は全員アルファだ。そして大公の子供は何人生まれようとも全員がアルファであるためにより多くの子供を残すことが彼らには義務付けられている。ならば沢山のオメガを彼らに宛がうのかといわれれば、そう簡単なものではない。  大公の子供は運命と呼ばれる魂の番でなければ生まれることはない。この世でたった一人、本能が呼び合う魂の番は、本能以外に血で見分けることができる。ゆえにオメガは皆血液検査をされて国が大公の番であるかどうかを調べるのだ。そして見つかれば大公と引き合わされ、番だと認定されれば揺り籠と呼ばれる場所で徹底的に隔離されて知識を詰め込まれる。万が一にも大公以外の者と番うようなことがあってはならないし、本人にその気がなくとも、発情期のオメガは多くのアルファを誘うフェロモンを発してしまう。オメガを守るためにも、大公の番は隔離されるのだ。そして成長すると大公と結婚する。駿河大公が結婚すれば、三人の大公の内二人が妻帯者となり、残りは一人となる。だが、この最後の一人である志摩(しま)大公(たいこう)が大問題なのだった。  彼の番は未だ、見つかっていない。

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