7 / 17

逃げ水1

 本人から得た情報ではないが、侑惺が嫌う理由が判明すると、宵娯は嘘のように他の者との体の関係をぴたりと止めてしまった。流石に不満に思う者は後を絶たなかったが、宵娯の意思が固いことを知ると、次第に波が引くように誘いは減っていき、代わりに友人付き合いをするようになりつつある。  その程度で宵娯と侑惺の関係が進展することはなかったが、どうやら宵娯が侑惺のために遊びを止めたらしいとの噂が密かに囁かれてきていた。 「愛しの侑惺君とはどこまで行きましたか」  噂を聞きつけたのか、烏山という男が好奇心を滲ませ、手をマイクのようにして差し出してくるが、宵娯は首を降る。 「相変わらず相手にされていない。だが、以前ほど無視されなくなった気がする」  ふと思い返すと、宵娯が遊びを止めてしばらく経った頃、廊下ですれ違ったので声をかけると、返事こそなかったがしっかりと目線が合い、物言いたげにしながら結局逸らされた。あれは何だったのだろう。 「ふうん。なかなか手強いねぇ。でも」  烏山が宵娯の顔を眺めたかと思うと、他の仲間と視線を交わしながら言った。 「すっかり恋をしているみたいだな。あーあと、宵娯の隣は俺が狙っていたのになぁ」 「恋……」  その言葉を噛み締めながら、侑惺の顔を思い浮かべた。僅かに自分の体温が上がった気がしたが、続いて、侑惺が自分と友人にさえなれていない事実に息が詰まりそうになる。  ふと侑惺に無性に会いたくなり、仲間と別れた後、図書室に向かった。どうしてか侑惺がそこにいる気がしたのだが、長い夕陽が差し込むばかりで、図書委員以外は誰の姿もない。  落胆し、帰ろうと踵を返しかけたところで、足元に図書カードが一枚落ちているのに気が付いた。拾い上げて、その持ち主の名前を目にした途端、笑みがこぼれて図書室を飛び出す。 「え?清水君なら帰ったみたいだけど」  6組の教室にいた生徒に息を乱しながら問うと、目を丸くしながらあっさりそう言われた。それでも諦めきれずに昇降口に向かったが、望みの人物の姿はない。ひょっとしてほんの数秒でも早ければ、図書室で会えていたかもしれないと思えば、口惜しくてならなかった。  追いかけるほどに遠ざかる侑惺の存在にますます想いが募るのを感じて、手にしていた図書カードを握り締めていた。

ともだちにシェアしよう!