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前編
……世の中に勝ち組と負け組が居るように。
『いじめる側』と、『いじめられる側』が居るのも確かなことだ。どこにいっても場に順応できずに、いわれのない暴言を吐かれ、物を盗まれ、コキを使われる存在が居る。
「……ハァ」
__そう。俺のことだ。
「…もう勘弁してくれよ」
いったい俺が何をしたというんだ。誰かを傷付けた記憶もなければ、誰かを裏切った覚えもない。それなのに、なぜ俺がこんな目に遭わなければいけないんだ。
「…いじめたくなるようなオーラでも出てるのか、俺は……」
幼稚園でも、小学校でも、中学校でも。
……そして今通っている高校でさえも、いじめのターゲットになるとは思っていなかった。
「(わざわざ知り合いが居ない全寮制の高校を受験したというのに、なんでだよ…)」
誰の邪魔にならないように隅で本を読んでいただけじゃないか。陰気なやつかもしれないけど、こんな目に遭う理由にはならないはずだ。
……このまま、もっと悪質なイジメにまで発展したらどうしよう。
「…クラスに戻りたくないなぁ」
俺は胸元に付いている名札を指で触りながら、ボソッと呟いた。一部分だけを残して、油性インクで塗りつぶされてしまった文字を見て更に嫌な気持ちに陥る。
「……兎、じゃねえし…」
『鈴木雪兎(すずきゆきと)』。苗字の全てとと名前の一文字を油性インクで塗りつぶされているため、今は名札には『兎』としか書かれていないように見える。
……ビクビク怯えて逃げる俺への当てつけだろうか。
「………ハァ…」
もういいや。今日もこのまま、この空き教室で身を隠しておこう。どうせイジメを黙認している教師も、わざわざ俺を捜しに来ないはずだ。
それに此処は別館のため人気は少ない上に、鍵も閉めているため、誰も来ることはないだろう。
「……寝よう」
そのことに安心した俺は、重たい瞼を閉じて意識を手放したのだった…
*********
「____お…い」
「…………、ん……」
「おい、起きろ」
「………ん、ぅ?」
頬をペチッと叩かれた感覚に、俺は意識を取り戻す。
あまり力は込められていなかったものの、深くは寝入っていなかったので、それだけでも目を覚ますには十分だった。
……そして、俺は。
「ヒッ!?」
「……あ?」
目を覚ますや否や、目の前に立っている人物の顔を見て、反射的に悲鳴を上げてしまった。寝起きにも関わらず、一瞬で睡魔が飛んで行ってしまったほどだ。
「な、な、なな、な…っ!?」
「……うるさ…」
「ひっ!す、すみません!」
……彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。
俺は今にも漏れ出しそうな悲鳴を殺すように、自分の口元を手で塞いだ。
「(な、なんで…、なんで彼が此処に……っ?)」
校内に誰一人友達が居らず、情報に疎い俺でさえも知っている。
……彼は、【宮島虎徹(みやしまこてつ)】さんだ。俺と同学年の二年生のはずなのに、この学校の不良のトップの三年生からも敬語を使われているほど喧嘩が強いらしい。
つまり実質今は、彼がこの学校のトップということだ。とはいっても、宮島君から暴力を振るうことはないようだけど…
「(顔も良くて、体格も良くて、喧嘩も強いなんて、彼は神に愛されすぎだろ…)」
……一つくらい俺に分けてくれてもいいじゃないか。
「(…そ、それよりも、今はこの状況をどうすべきかだよな。このまま立ち去ってもいいのかな……?)」
デカい図体で目の前に立たれると、非常に動き難い。
見ていることに気付かれないように、チラリと上目遣いで彼の様子を窺えば、バチッと視線がぶつかった。
「…あっ、えっと……っ」
「……随分と余裕そうだな」
「え…?」
「ヤりたくて此処に来たんだろ?それなのに寝てるなんて、余裕があるじゃねえか」
「……え、っえ?…やる?」
「いつも相手する奴等と違って着飾ってもなく真面目そうだが、見かけによらず手慣れてるのか?」
「………えーっと…?」
彼の言っている意味が分からず、首を傾げる。
「まあ、どうでもいいけど」
「…、っ!?」
「……最近ヤれてなくて溜まってるんだ。相手になれよ」
「う、ぁっ?」
しかし、状況についていけずに戸惑っている内に、更に困った状況に陥ってしまった。
……なぜなら、彼の大きな身体によって、押し倒されてしまったからだ。
「なっ、や、やめ…っ」
「暴れるな。大人しくしてろ」
「……ッ、ん…ぅ!」
大きな身体で覆い被され、大きな手で服を脱がされる。突然の彼の行動の意味が分からなくて、ただただ怖くて暴れれば、露になった首元に歯を立てられた。
「ひ、ぃ……っ、んんッ」
しかもそれだけでは気が済んでいないのか、熱い舌で皮膚を舐めてくるものだから、俺は更に恐怖で身を縮めた。
「ふ…ぅ、ううっ、ん…んぅ」
“これ以上抵抗をしたら、噛み殺される”
そう察し取った俺は、動かないように身体を石のように硬くする。…だが非情なことに、その間にも彼の行動は度を増して行く。
「っ、ぁ!?」
「……狭えな」
「やっ!?ひぇ、っう!や、やぁ…ッ」
……なんと、尻の穴に指を入れられたのだ。
当たり前のことだが、そんなところを他人に触れられたのは初めてのことで、俺は目を白黒させる。
「慣れているんだろ。力を抜け」
「…、んな……無茶なこと…ッ、ふぅっ、抜いて、くださっ」
「…なんだ?そういうプレイが好きなのか?」
「ひぁっ、んッ、ぷ、プレイ…?」
「……はっ、随分と好き物だな」
俺の首元に舌を這わせ、ガブガブと甘噛みを繰り返していた彼は意味深な台詞を吐いて笑った。
「……ん…っ」
……その時に掛かった彼の吐息が、妙にくすぐったくて、思わず変な声が出てしまった。
「それじゃあ、これ以上慣らす必要もねえな」
「……ッ、あぅっ」
…ヌポ、となんとも卑猥な音を立てて、俺の中に入り込んでいた二本の指が一気に抜けた。
圧迫感がなくなり、俺はホッと安堵の息を吐くものの…、
「…ふ、ぁ?……なにして…?」
カチャカチャと音を立ててベルトを外し、ズボンの前を寛がせる目の前の彼を見て、俺は息を詰めた。
「ふっ。言わなくても分かるだろ」
「……やっ、」
『嫌な予感がする』。
危険を察し取って、脳内は逃げろと警報を鳴らしている。だけど悲しいことに、腰が抜けて動くことさえもできない。
「や、やだ、やだやだ、やだっ!」
手に唾を吐きかけて、緩く勃ち上がっているペニスを扱く彼のその姿を見てまで、今の状況が分からないほど俺は鈍くない。
「おら、逃げんな」
「……ひっ!?」
少しでも距離を置くために、手の力だけで後退するものの、すぐに引き寄せられてしまった。その際に、完璧に勃起したものを尻の穴に押し当てられ、俺は我慢できず涙を流す。
「や、やめろ、やめてくださ…っ、」
「……力、抜いてろよ」
……だが、最後まで俺の悲痛な叫びは無視され続けて、そのまま強引に、熱の塊を体内に入れ込まれた……
「…ひッ!?ぁっ、ッうぅ、ふぅッ!」
「………っ、せま…」
「い、いた、ぃっ、ひぁ、ぁッ」
二本の指とは比べ物にならない圧迫感。皮膚が引き攣るような刺激と、焼けるような感覚に耐え切れず、俺は諸悪の根源である彼に力強くしがみ付いた。
「ぬい、て…っん、ッふぁ」
「……っ、てめえ、食い千切るつもりかよ…」
「うぅ、っうぁ、しぬ、死んじゃうからぁ…ッ」
まさかこんな形で、童貞よりも処女を捨てることになるとは思っていなかった。
悔しいし、苦しいし、なにより痛くて、俺は彼のむかつく程に硬く逞しい胸元をパシパシと叩く。
「……っは、……おい、力抜けって」
「…っ、無理、言うなぁ…ッふ」
「演技、じゃねえよな…?」
「…く、るし…っ、ん、んんっ」
「………お前、まさか……」
「ひっ、ひっく、んっ、チンポに、殺される…ぅ」
「……初物か?」
「そ、んなの、当たり前…っ」
「……まじかよ」
あれほど嫌がっていた俺を見て、性経験に乏しいと気付けなかったのか。演技なんて有り得ない。できるわけがない。
…というよりも、俺たちは男同士なわけだし、こんなことになるなんて考えもしていなかった。
「……悪い」
「…と、とにかく、分かったのなら、……んっ、早く、抜いてください」
「……いや、だがそれは無理な話だ」
「っ、なんで?」
「途中で止められるわけねえだろうが」
「……なっ!?」
「こんなに熱く締め付けられて、途中で止める男なんて居ねえよ」
彼の勝手な行動で、俺はこんなにも痛くて苦しい思いをしているというのに、その言動はあまりにも酷過ぎる。
腹が立った俺は、せめてもの抵抗として、彼の身体に思い切り爪を立ててやった。
「ふっ。可愛いことしてんじゃねえよ」
……しかし、全く効いていないようだった。
それどころか、なぜか笑われてしまった。
「あまり煽ってくれるな。……手加減できなくなるぞ?」
「…ひっ、ぁ!?…や、やめ、んんッ」
「ほら。そのままこっちに集中してろ」
「……やぁっ、んっ、んっ、んんっ」
彼は本当に行為自体を止める気はないらしく、身体を繋げたまま、痛みで萎えていた俺のものを扱き出した。
「ッ、ふ…ぁっ!ぁっ、んぅっ」
……悔しいけれど自分でするよりも、何倍も気持ち良くて、上擦った声が嫌でも口から洩れてしまう。
「……やっ、ん、…だ、だめ…っ、ふぁ」
大きくて熱い手の平に包まれ、骨ばった太い指で裏筋を撫でられると、すごく気持ちがいい。
「んんっ、ーッ!ひ、ァっ」
無理やり身体を繋げられ、痛みで萎えていたペニスは、今ではみっともなくダラダラと先走り汁を出している。
「やだ、やだぁ、…っん、はふ……なんで…ぇ」
…これではまるで、涎を垂らして喜んでいるようだ。
「ンっ、…ぁッ、んんっ、きもち……っ」
「……エロい顔」
「ゃっ、み、みるなぁ…、ッん!」
「……お前、可愛いな」
「っふ、んむ……っ!?ん…ンっ」
『まるで小動物みてえ…』と言い放った彼は、手の動きを止めないまま、俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
「…ふぁ、っん、ん、ん…ぅ」
「……、っは」
上顎や歯列を尖らせた舌先で舐められ、強引に舌を絡め取られる。
「や…ぁ……、ッん…ふ、ぁ」
唾液が絡まる音や先走り汁が、いやらしい水音を立てる。初心者の俺にとっては、それだけでもう頭の中がグチャグチャになるほどの強過ぎる刺激だ。
「…はっ、あんなに狭かったココも、今ではトロトロだな」
「……あぁっん!ふァ、ぁっ!」
「すげえ美味そうに俺のを銜えてるぜ?」
「ち、ちが……ッ、んんっ」
…………違わない。彼の言っていることは本当だ。
彼の熱の塊をキュンキュンと締め付けて、嬉しそうにしゃぶっているのが自分でも分かる。だけどそれを認めたくない俺は、頭を横に振りながら否定をした。
「……も、もう、…んンっ、やだぁ」
「嘘吐け。ここで止めたら困るのはお前も同じだろ」
「ッ、ん!ひぁ、ぁっ、ッふぁ」
腸壁を擦るように抜き挿しをされると、堪らなく気持ちが良い。
先程まではあんなに痛かったのに、雁の部分が引っ掛かるように動かれるだけで、俺の身体は嬉しそうに反応を繰り返している。
「ん…んんっ、あぅ、うぁッ」
今では飲み込みきれなくなった唾液を、口端から零しながら喘いでしまっているくらいだ。きっと俺のこの気持ち悪い乱れ様に、諸悪の根源である宮島さんも引いているに違いない。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁんッ」
「………えっろ」
「…ん…っ、は…ふ」
しかし、俺の予想に反して、彼は俺を見て興奮しているようだった。
……だって、口端から零れ落ちる俺の涎を舐め取ってくるくらいだ。
「んん、んぁ、あッ、ん」
「……っ、は」
……なんで俺がこんな目に遭っているのかは分からない。これがいつものイジメの延長上での出来事だとしたら、それはあまりにも酷過ぎる話だ。
…………だけど……、
「あぅっ、ッんん…そこ、きもち…っ」
大きな身体で抱き締められ、まるで恋人のように唇を啄まれながら身体を揺さぶられると、全てがどうでもよくなってくる。快楽で脳が蕩けるというのは、こういうことを言うのだろう。
「ひゃあ、ッふ…ぁっ」
「…何もかも初めてのくせに、エロ過ぎだろお前……」
「んっ、ッん、んんぅっ!」
「……名前教えろよ」
「ふぁ、あっ、ッあ、んぁッ」
「…って、もう聞こえてねえのか」
「……ん、ん…ふぁ、あっン」
彼が俺の胸元に付いている名札に触れて、耳元で笑った気配がした。
「っん、んぁっ、ッふあっ」
「……『兎』、か。名前通りの存在だな」
「ん…ん、イくっ、イっちゃう、ぁんっ」
「ふっ。いいぜ、好きなだけイけよ」
「ッんん!ん…んっ、んぁっ!」
「…っは、俺も兎の中に出すから
な…っ」
「……あっ、あ……ぁぅッ」
蕩けてしまっている脳内では、彼が俺を『兎』と呼んだ理由が分からず、俺は本能のまま宮島さんの広い背中に腕を回して精を放ったのだった。
……後日、この部屋が『宮島虎徹』の所有部屋だということを知ったのは、また別の話だ……。
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