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「…俺…っ、聞きたい、ことがあるんです」
「……」
「答えて…くれますか?」
「……ああ」
俺はまず武宮さんと妹との関係を訊いてみた。
「妹とは付き合ってないんですか?」と嫌われるのを覚悟で訊ねてみれば、武宮さんは小さく頷く。
「…恋人、ではないんですね」
「そうだ…」
妹と武宮さんが恋人ではないというのは、嬉しいという気持ちもあるが、今はそれ以上に驚きの方が大きい。
…何でわざわざ“付き合っていたフリ”をしていたのだろうか。
もしかして俺が武宮さんに恋心を抱いていたことを知っていて、恋人のフリをしていたのではないだろうか。それで俺を諦めさせるために、二人が手を組んで……。
そう思ってしまって仕方が無い。
「……、」
いやでも妹は俺に「頑張れ」と言ってくれた。それに武宮さんだってそんなことをする人ではないはずだ。
………でも、だけど。
俺が二人の何を知っているって話だよな。もしかしたら妹にも、そして武宮さんにも、とっくの昔から嫌われているかもしれないし。
二人のことを疑いたいわけではないけれど、自分に自信がないため馬鹿なことばかり考えてしまう。
最悪だ、俺っ。
最も愛している二人を疑うなんて。
「……っ、」
「…おい」
「ふ…っ」
「何故、泣く?」
「……っ、ぅ」
…そんなの。
そんなのっ。
自分の醜さが嫌で嫌で仕方がないからに決まってる。「恋は人を綺麗にする」という言葉は嘘だ。だってその証拠に俺はこんなにも汚い人間じゃないか。
「………」
いや、違うな…。
俺に恋をする資格がないだけか。
もうやだ。何で俺ってこんなにも醜いんだろうか。男とか兄とかそんなことよりも俺の人間性が駄目なんだ。
武宮さんの前で泣くのだけは嫌だったのだが、もう我慢することすら出来ずに幼子のように、ひっくひっくとしゃくり上げながら泣いていたら、不意に頬を大きな手で包み込まれた。
「…泣くな」
「た、けみやさ…ん」
「お前に泣かれると、…困る」
困る?何で?
何故武宮さんがそんな苦しそうな表情するの…?
どんどん溢れてくる涙を止める術が分からず、そして武宮さんの言動の意味が分からず困惑していたら、急に武宮さんの端正な顔が近付いてきた。
「…ン、」
………あ、少し動けばこのままキス出来そうなんて悠長に考えていると、チュッと可愛らしい音を立てて唇が一瞬だけ重なった。
「……え?」
その瞬間、俺の涙はピタッと止まった。
「……は、?…えっ?」
今俺たち…キス、したよな…?
しかも俺の馬鹿みたいな意味の分からないこじつけからではなく。しかも武宮さんから。
「え…?な、何で…?」
あまりの驚きに俺の涙はピタッと止まった。涙が止まってくれたのは嬉しいけど、今度は身体の震えが止まらない。理由は分からないけど、手が馬鹿みたいに震えている。先ほどの勝手に溢れてくる涙と同じく、震えも俺の意志では止まらないから怖く感じる。
「…な、んで?」
「泣いてたから」
「……え?」
「泣いてほしくない」
武宮さんはそう言うと、まるで大事な物を扱うかのように俺の頬にそっと手を添え、再び顔を近づけてきた。チュッと音を立てられて、一瞬だけくっ付いた唇が離れた。しかも一度だけではなく、何度も何度も。
「……ぁ、」
もう訳分かんない…。これは夢?
…いや、そんなわけあるものか。
こんなリアルな感触があるわけない。前にも感じたように武宮さんの少し乾燥した唇が俺の唇に重なり、そして最後に赤く熱い舌でペロリと上唇をなめられた。
「…泣くな」
「……俺が泣くから、キス?」
「………」
「武宮さんは、…泣いてる人が居たら誰にでもこうしてキスするんですか…っ?」
「それは違う」
武宮さんとまたこうしてキス出来るのは死ぬほど嬉しい。だけど、…だけど…っ、それ以上に胸を痛いほど締め付けるモヤモヤの方が大きくて苦しいっ。
「じゃぁ、…何でっ、」
「お前だからだ」
「………、!?」
「みなまで言わないと分からないか?」
「た、けみやさん」
「俺はお前が、…順平が好きだ」
その衝撃的な武宮さんの告白に、やっと止まってくれていた涙がぶわっと溢れだした。しかも震えとセット。
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