1 / 90
第1話
都丸誠司(とまる せいじ)は朝からぼんやりとラッシュに揉まれていた。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ電車。
小学校から続く通学も10年目になった。
人の波に押され、漂い、流される…。
誠司はその流れに歯向かう気力も、抗う体力も無持ち合わせていなかった。
もちろん、自分から切り拓いていくなんてもっての他。
さらに言うなら親友も持たず、誰とでも表面だけの薄っぺらい付き合いだけしていれば十分だった。
流されるまま行き着いた先で、いや、行き着く先もなく流されるままでいい、そう思っていた。
この日までは。
入学式という名の無駄に長い儀式がようやく終わった。
流されるだけでいい人生でも酷く退屈な日だ。
体育館での我慢の儀式が終わり、教室で担任以下クラスメイトの簡単な自己紹介も次々と行われ、慣れないネクタイがそろそろ苦しくなってきた。
(ネクタイなんて飼い犬の象徴だよな…)
結び目に指を入れ、少し緩めた。
俺が通うのは幼稚園から大学まで一貫教育を行う千秋藤皇学園(せんしゅうとうおうがくえん)だ。
首相、官僚、研究者…様々な人材を排出している。
俺はこの学年のトップだ。
正確に言うと、トップだった。
自分のランクにまるで興味は無かったが、入園以来トップの座を譲ったことはなかった。
それが高校進級時の模試で…。
(高入生のヤツに持っていかれた)
東儀一心(とうぎ いっしん)
柔らかそうで少し長めの黒髪、パッチリした黒い瞳、色白で頬に赤みが差していて…
·····美人?かな
·····性格は…どうだろう?
そこまで考えて、はたと気づいた。
·····自己紹介でしか喋っているところを見ていない。
好きなものも嫌いなものも特にはない、と言っていた。
人物を形容しなれないせいか、これ以上表現する言葉が見あたらないが…
·····まあいい…同じクラスに在籍しているんだ。
·····どんな奴か…これからわかる·····。
ともだちにシェアしよう!