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第32話*贄嫁*

「どうしたトキワ。今夜は顔色が悪いな」 「あ、いえ、そんな」  いざ思うと言葉がのどに張り付き出てこない。 『だめだ。俺だって元は贄嫁だ』 「お、お館様・・」 「ん」 「お、俺の前の贄嫁ってどこに行ったんですか・・」  狐はトキワの目を見つめ、 一番聞きたくなかった言葉を口にした。 「喰った」  覚悟していた。 でも希望も持っていたかった。 次にどの言葉を発すればいいのかわからなくなり、すみれ色の瞳からは 悲しみしかあふれてこなかった。 そんなトキワを見て狐は盃をぐいと空け、言葉を続ける。 「前の狐がな」 「・・え」 「低俗な狐は人を喰らう。俺はもともとここに住み着いていない。この山にいる狐が人を喰らうと聞いて追いやった」 「だがお前たちの悪習は残っていて一人の青年がやってきた。 そこで俺は青年と話し合いをし、村から出した」 「しかし村の者はまた連れてきた。トキワ。お前だ。俺はお前が贄になり続けていると思わせて、雨を降らせている」 「お前が最後の贄嫁だ」 「その俺の前の人はどこに?」 「二つほど向こうの山で僧の修行をさせている。そろそろ戻るだろう」 「お坊さんに?」 「トキワ。俺は土地の人間が嫌いだ。こんな雨も降らない枯れた土地にしがみついて生きている。だから青年を僧に出した。戻ってきて奴らを説得し、もう少し豊かな土地に移るようにな」  トキワの涙はあごを伝い握りしめていた手の上を濡らしていった。 「トキワ?」 『贄嫁を喰っていたのはお館様じゃなかったんだ』  涙をためているすみれ色の瞳は安心したように目じりが下がっていた。

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