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第33話*すみれ色の涙*

「うわああ!」  トキワは腕をつかまれ、狐の胡坐の上に抱きしめられていた。 狐の体温があの日の恐怖を思い出させる。 「お、お館様。約束がっ」 「泣かないでくれ」 「え・・」 「泣かないでくれトキワ。俺はお前の涙を見ると刺されたように胸が痛む。俺は誓ったのだ。 トキワ、二度とお前に涙を流させないと。だからお前の涙はもう見たくないのだ」 「お館様?違います。お館様」 「トキワ?」 「村の人を助けてくれて、逃がしてくれて、俺のことも喰わずにいてくれて、そのようなお優しいお心に涙が出たのです」 「トキワ・・」  狐は優しくトキワを抱きしめた。するとトキワは狐の腕をするりとすり抜け、深々と頭を頭を下げ、 「本日は誠にありがとうございました。お館様。失礼いたします」  そう言ってトキワは寝所を後にした。 「礼に口吸い位欲しかったのだが・・」  狐は仕方なく盃に手を伸ばした。

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